研究課題/領域番号 |
23791174
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
粟野 宏之 神戸大学, 医学(系)研究科(研究院), 特命助教 (30437470)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 国際情報交流 |
研究概要 |
我々は、これまでジストロフィン遺伝子のエクソン配列内に挿入された変異配列の解析から新規非翻訳 RNAを同定した。この研究は新規非翻訳RNAのクローニングと機能解析を行うものである。これまで得た新規非翻訳RNAの452塩基の配列をもとに5’RACE法を用いて全長の解析を試みたが、これ以上の配列を得られなかった。そこで両端にユニバーサルプライマー結合領域を含んだアダプターを有するcDNA(Marathon-ready cDNA)を用いてPCRを行ったところ新規非翻訳領域を含むいくつかの長さのPCR産物を得ることができた。この中で最長のものは約2000塩基で、この産物の配列の解析をおこなった。すると、新規翻訳RNAをコードする領域から上流に連続した約1600塩基のゲノム上の配列を得ることができた。しかしこの転写産物の端にはPCRに用いたプライマーの配列を有さなかったため非特異的産物と考え、新規非翻訳RNAの全長は452塩基であると結論した。次に機能解析の実験を行った。非翻訳RNAが他の遺伝子に影響を及ぼす場合、細胞内での局在は核内である。そこでHeLa細胞の核抽出液で新規非翻訳RNAの増幅をおこなった。その結果、非常に弱い発現を認めるのみだった。そこで実験に適切な細胞を選ぶために、新規非翻訳RNAが高発現する臓器の検討を行った。以前にヒトの新規非翻訳RNAはヒト大脳で高発現を認めることを確認していたため、さらに脳の各部位のcDNAを用いて新規非翻訳RNAを増幅した。ヒト大脳皮質、小脳、前頭葉において高い発現を認めた。さらに、より実験の容易であるマウスをつかって検討した。マウスにおいて、新規非翻訳RNAのコードする遺伝子は452塩基中の119塩基が保存されていたため保存された領域の配列をマウス脳cDNAを用いて増幅した。しかしマウス脳において非常に弱い発現しか認めなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新規非翻訳RNAの機能解析が当初の研究計画よりやや遅れている。その理由は、まず新規非翻訳RNAの全長の解析に時間がかかったからである。新規非翻訳RNAの全長の解析のために5’RACE法を用いたが、この手法では全長を特定することができなかった。後に別の方法で解析をおこない、全長が以前に同定した452塩基のみであったことを確認したが、Marathon-Ready cDNAを用いた全長解析を行ったために解析期間が長くなった。非翻訳RNAは細胞の核内に存在する場合、他の遺伝子の発現などに影響を及ぼすことが予想されるが、Hela細胞の各抽出液を用いた検討では新規非翻訳RNAの発現が弱かったため、他の細胞での検討が必要となった。ヒト大脳に発現していることが以前の研究で明らかになっていたため、神経系の細胞で入手可能であったヒトの神経芽細胞腫で検討を行ったが、有意な結果は得られなかった。結果としてヒト大脳の部位別cDNAを用いた検討で高発現しているヒト大脳の部位を同定したが、新規非翻訳RNAの核内局在を証明するために新たな実験が必要であった。
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今後の研究の推進方策 |
当初の目的では、新規非翻訳RNAの機能解析として、新規非翻訳RNAをコードする遺伝子の下流に存在するグルタミン酸レセプター遺伝子への影響を調べることを計画していた。しかし、実験に用いる細胞の検討を行うに当たり、最初に細胞の核内に新規非翻訳RNAが局在することを証明する必要がある。今後は、高発現を認めるヒト大脳皮質、小脳、前頭葉の細胞を用いてin situ hybridizationや免疫染色、RNA-FISHなどの手法で、新規非翻訳RNAの局在解析をおこなう。新規非翻訳RNAがこれらの細胞の核内に存在することが証明されれば、他の遺伝子の発現などへの影響を及ぼすことが予想されるので、今回の実験の目的であるグルタミン酸レセプター遺伝子への影響を検討する。実際の検討方法は、計画書に沿ってすすめる計画である。新規非翻訳RNAが核内に局在する細胞において、グルタミン酸レセプターの遺伝子の発現も確認する。新規非翻訳RNAとグルタミン酸レセプター遺伝子の両者が発現する細胞において、アンチセンスオリゴヌクレオリドもしくはAntagomirを用いたRNAiにより新規非翻訳RNAをノックダウンし、グルタミン酸レセプター遺伝子mRNAの発現の変化の定量を行う。これにより新規非翻訳RNAがグルタミン酸レセプター遺伝子に及ぼす影響を明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度研究費は今後解析に必要な細胞、in situ hybridizationや免疫染色、RNA-FISHなどに使用する物品を買うための予算である。また研究に使用する以外も特に成果発表のための出張費、論文掲載費を残したためである。次年度の研究計画は、新規非翻訳RNAの核内局在を証明するために、現在までに発現の明らかになっているヒト大脳皮質、小脳、前頭葉、またはそれと系統を同じとする細胞を購入する。さらに局在の解析に使用するin situ hybridizationや免疫染色、RNA-FISHのキットを購入する。機能解析の手段として用いるRNAiの検討を行うために、市販のキットを購入するさらに実験の成果発表に使用する国内外の学会への参加・出張費に研究費を使用する。成果発表の際には印刷費や複写費用が必要であり、さらに論文掲載にかかる諸費用も研究費から捻出する予定である。
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