研究課題
前年度のスクリーニング試験において有望視された新規治療薬(糖代謝亢進薬: DADA, 脂肪酸代謝亢進薬: Bezafibrate)について、その作用機序・治療効果をマウスを用いて解析した。また、本学大学病院の集中治療室との共同研究により、インフルエンザ患者に限らず、敗血症等を含む全身性炎症反応症候群(SIRS)の患者では、重症化の際に末梢血中のATP(アデノシン三リン酸)が低下することを証明した。1. 新規治療薬の作用機序インフルエンザの重症化の主要因は体内代謝破綻による全身組織のATP枯渇である。具体的には、ウイルス感染により糖代謝が障害され、その代替的なエネルギー産生系である脂肪酸代謝が促進される。しかし、この脂肪酸代謝酵素が先天的に低下している患者では重症化する。この過程で、DADAはウイルス感染で起こる糖代謝の障害に関わる鍵酵素(PDHC)の酵素活性の低下を阻止すること、BezafibrateはPPARαのアゴニストとして作用し、脂肪酸代謝酵素の発現量が亢進することで、体内代謝の破綻を修復することを明確にした。2. 新規治療薬の治療効果上記2種の新規治療薬について、マウスあるいはヒト培養細胞を用いて治療効果の再評価を実施した。その結果、DADA及びその誘導体を投薬したマウスでは大幅な病態の改善効果(生存率の上昇、体重減少の抑制、炎症性サイトカインの低下、肝臓や心臓組織等の ATP量の増加)を認めた。また、Bezafibrateを脂肪酸代謝異常症患者由来の線維芽細胞へ添加した結果、脂肪酸代謝の促進及び細胞内のATP量の増加を認めた。以上、本研究では、抗ウイルス薬とは作用機序を異にするインフルエンザの新規治療薬を見出した。現在、これら新規治療薬の誘導体を合成し、さらに治療効果の高い薬剤の開発・評価試験を、インフルエンザ重症化モデルマウスを用いて試みている。
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