研究課題/領域番号 |
23791184
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
石井 加奈子 九州大学, 大学病院, 特任講師 (90400332)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 成長ホルモン / 子宮内発育遅延 / 低身長 |
研究概要 |
SGA(Small for gestational age)性低身長患者19名を同意を得た上で登録した。患者群において、成長ホルモン(GH)投与開始前、開始後1、3、6、9、12ヶ月後の情報収集と検体採取を行った。これまで代謝内分泌学的パラメーターとして、身長SDS・IGF1・HbA1c・甲状腺機能・総コレステロール・LDLコレステロール・HDLコレステロール・各種アポ蛋白・リポ蛋白分画を測定し、各パラメーターについてGH開始後の変化を解析した。 その結果、身長SDSは治療後3ヶ月から有意に改善し、12ヶ月後には平均+0.55SDの上昇を認めたが、個人差が大きかった。患者群でIGF1は治療後1ヶ月から有意に上昇したが、身長の改善に乏しい例ではIGF1の上昇も認めなかった。FT4は治療後1ヶ月から有意に低下したがTSHに有意な変化はなかった。HbA1cは一過性に大きく上昇する例があり、治療後12ヶ月では患者群で有意に上昇した。LDLコレステロールは治療後有意に低下し、ApoC-2・ApoEの有意な上昇とApoB/A1比の有意な低下を認めた。 これらの結果より、SGA性低身長におけるGH治療において、GHに対するIGF1反応性の差が治療効果に関与する可能性が考えられた。また、これまでの報告と同様に、GH治療により耐糖能や甲状腺機能が変化する可能性があり、注意が必要と考えられた。LDLコレステロールやApoB/ApoA1比の低下からは、GHの脂質代謝改善作用が示唆されたが、総コレステロールやHDLコレステロールには変化がなく、SGA児においてはGHの影響がGH分泌不全患者とは異なる可能性がある。ApoC-2はリポ蛋白リパーゼの活性化に重要であり、ApoEはリポ蛋白受容体のリガンドであるため、これらのアポ蛋白が脂質代謝の変化に関与している可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでSGA性低身長患者19名を登録しており、1年間で目標の30症例の約3分の2を到達できた。同時に年齢・性別をマッチングした対照者の登録を進めている。 登録患者のGH開始後の情報収集・検体採取もおおむね予定通りできており、代謝内分泌学的パラメーターについては統計学的に解析できる程度のデータが集積した。収集した検体の血球数やフローサイトメトリーを用いたリンパ球分析による免疫学的パラメーターもほぼ測定が終了しており、現在解析中である。 GH反応性と遺伝子多型の関係を調べるために、GH受容体~JAK-STAT経路に関与する遺伝子群の多型解析も進行中である。
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今後の研究の推進方策 |
SGA性低身長患者の新規登録を進め、目標の30症例に近づける。同時に適切な対照者からの検体採取を進める。 臨床情報の収集と採取した検体の代謝内分泌学的パラメーター・免疫学的パラメーターの測定は引き続き行う。遺伝子解析について同意を得られた患者については遺伝子多型解析もこれまで通り行う。 新たに、保存していた血清におけるアディポサイトカイン測定と保存リンパ球におけるサイトカイン遺伝子発現の解析を開始する。 データが集積した時点で、患者群と対照群の比較、患者群のGH投与後の変化、GHによる変化と遺伝子多型の関連について統計学的に解析を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
フローサイトメトリー・アディポサイトカイン測定・サイトカイン遺伝子発現解析にそれぞれ試薬が必要なため購入予定である。 研究成果を学会にて発表するための旅費として使用予定である。 得られたデータを統計学的に解析するためのソフトを購入する予定である。
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