研究課題
Beckwith-Wiedemann症候群(BWS)症例35例について、片親性父性ダイソミー(UPD)の遺伝学的多様性を検出するため、マイクロサテライトマーカー解析、SNPアレイ解析を終了した。 SNPアレイについては、Nexus CNV6.0ソフト(Bio Discovery, USA)を使用し、Breakpointを2つのSNP間まで絞り込むことができた。 UPDが原因であった症例は25例(男性6例、女性19例)あった。症例のUPDモザイク率は28~99%(中央値: 62±12.63%)と幅広く分布しており、UPD範囲は11番染色体短腕の範囲が多いが、長腕に及ぶ症例もあり、またUPD症例の16%(4/25)がゲノムワイド片親性父性ダイソミー(GWU)であった。 UPDは腫瘍や腎泌尿器奇形などの合併が多いとされていたが、臨床情報との関連をBWS123例で検討した。まずBWSにおいてUPDが原因である場合は、三主徴(巨舌、腹壁欠損、過成長)、耳垂線状溝、片側肥大、臓器腫大、腫瘍合併の傾向があった。腎奇形の傾向はなかったが、外性器異常が26.3%と他遺伝子異常に比べて多くみられた。 今回のUPD25例における遺伝学的多様性の検討では、UPD範囲の増大により腫瘍合併が多いことが判明した。また在胎週数との負の相関がみられた。モザイク率に関しては、出生体重/胎盤重量比との負の相関があった。 GWUはこれまで稀な病態として報告されてきた。GWUはBWS症状を呈するが、子宮内胎児発育遅延や出生後発育遅滞、高率な腫瘍合併など、BWSと異なる所見を呈し、その発症機序は不明とされてきた。今回ゲノムワイドにUPDを検索したことで、GWUが16%と高率であること、腫瘍合併も高率であることなど、重要な事実が判明している。
1: 当初の計画以上に進展している
BWS症例35例について、マイクロサテライトマーカー解析、SNPアレイ解析を終了した。UPDによるBWSについて、遺伝学的多様性(UPDモザイク率、UPD範囲)の結果を得た。解析が進展しているのは、これまでの研究でストックされている検体が多くあったことと、日常的にBWS検体の依頼と解析を進めているためである。またすでに臨床情報を得ていることも、解析効率に寄与している。 UPDが原因であった25症例については、遺伝学的多様性と腎泌尿器奇形との関連は見出すことができなかった。しかしUPD範囲の増大により腫瘍合併が多いことが判明した在胎週数相関がみられた。またモザイク率に関しては、胎盤形成に影響している可能性も示唆された。これは新しい知見である。 これらの事実から、さらなる遺伝学的解析を検討していく足掛かりになっており、当初の計画以上に進展している。
UPDを伴うBWS症例において、UPDモザイク率およびUPD範囲といった遺伝学的多様性は、腎泌尿器症状には影響を及ぼしていなかった。しかし、BWSでの最も重要な関心事は腫瘍合併であり、そのため長期の経過観察を行っている現状がある。今回のデータは、これまでの報告では明確にされていない事実である。そのため遺伝学的解析を進めていく。 UPD範囲について、全ゲノムをSNPアレイで解析できており、特にUPDのBreakpointを、SNP解析ソフトNexus CN software 6.0で検出できている。この情報をもとに、染色体組み換えが発生しやすい共通配列を解析する。方法は解析ソフトCLC Main Workbench 6を用いて、Blastnからの情報を基に、Breakpoint周囲の配列を解析する。
これまでの結果について、日本エピジェネティック研究会、米国人類遺伝学会、日本人類遺伝学会で報告をする。またBreakpointの共通配列結果を確認し、論文作成を行う。UPD症例は現在も増えており、追加の解析を随時行っていく。
すべて 2011
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (2件)
Clinical Nephrology
巻: 75(3) ページ: 255-62
日本小児腎臓病学会雑誌
巻: 24(1) ページ: 36-46
巻: 24(2) ページ: 62-66