本研究では、疫学調査に基づく精神疾患モデル動物(妊娠期感染症モデル動物)の病態脳形成メカニズムを解明することを目的としている。平成24年度は昨年度までの検討結果を踏まえ以下のことを検討した。 1. 大脳層特異的遺伝子の発現変化がNTsシグナル伝達効率に与える影響:妊娠期感染症モデル動物では、大脳皮質の第II-IV層に固有な転写因子であるCux1、Brn1の発現が低下していることを見出している。これらの転写因子を抑制すると、神経細胞の性質にどのような変化を与えるのかを平成23年度に作製した発現抑制ベクターを用いて検討したが、十分な遺伝子導入効率を再現よく得ることができなかったので、再度ウィルスベクターを作製し直し、遺伝子導入条件の最適化を行った。また、培養下大脳皮質神経細胞へ神経栄養因子を添加し、経時的に神経活動最初期遺伝子の発現および活動依存的に発現変化する大脳皮質層特異的遺伝子の発現を検討した。 2. 妊娠感染症モデル動物が外界からの入力情報伝達プロセスに与える影響:妊娠期感染症モデル動物に認知学習タスクを行わせると、学習成立後の脳内での最初期遺伝子の発現変化が認められたことから、本年度は神経栄養因子シグナルの変化を検討した。妊娠期感染症モデル動物では、対照群と比較して大脳皮質(前頭皮質等)で神経栄養因子シグナルの発現低下が認められた。妊娠期感染症モデル動物では、学習成立までの過程が対照群と異なっており、前頭皮質でのNTsシグナルの発現の違いが行動変化を反映している可能性が示唆された。
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