研究課題
多発性嚢胞腎(polycystic kidney disease、PKD)は、腎の異形性を伴わない両側びまん性嚢胞形成を特徴とする遺伝子疾患群で、わが国で最も頻度が高い遺伝性疾患の1つである。PKDでは、嚢胞形成に伴い線維化が進行し末期腎不全に至る。近年、PKDの病態に上皮間葉移行(EMT)が関与することが明らかになった。腎線維化・EMTにおいて、TGF-β/Smad3経路が非常に重要であり、腎線維化モデルで、TGF-βおよびSmad3の亢進が認められている。またSmad3ノックアウトマウスではEMTが抑制されることが報告されている。本研究の目的は、PKDにおけるEMTにかかわるシグナル伝達系について明らかにするとともに、現在のところ確立した治療法はないPKDに対して、TGF-β/Smadシグナル伝達系をターゲットとした病態特異的治療戦略の可能性を検討することである。本研究で用いているCPKマウスは、ARPKDモデルで、世界で最も解析されているPKDモデルである。尿細管上皮細胞における極性異常を示す。起源は自然発症モデルであるが、近年原因遺伝子がクローニングされ、PCRにより遺伝子型の決定が可能である。研究には、生後1日、7日、14日、21日のCPKマウスおよび同日齢の同腹のマウス(対照)を用いている。これまでにCPKマウスにおけるEMTおよびTGF-β・Smad3の亢進を確認し、そのシグナル伝達系について検討した。さらに、Smad3ノックアウトマウスとCPKマウスのダブルミュータントの作製を開始し、Smad3の操作による疾患表現型の修飾について検討した。これらの知見により、疾患特異的治療開発のための基礎データを収集した。CPKマウスにおいてTGF-β/Smad3系は量的異常より質的異常を示し、JNK/CDK4を介した核内pSmad3L/C作用によるc-Mycの発現増強が示唆された。pSmad3L/CがPKDの病態に重要な役割を担っている可能性がある。
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