研究課題/領域番号 |
23791207
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研究機関 | 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター |
研究代表者 |
和賀 央子 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター, 神経研究所 疾病研究第二部, 科研費研究員 (80462795)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 精神遅滞 / 広汎性発達障害 / シナプス / ゲノム解析 / 遺伝子変異 |
研究概要 |
精神遅滞および自閉症を含めた広汎性発達障害は中枢神経系の発達的機能獲得不全を原因とする疾患であると言われており、原因の一つの可能性として「脳発達期のシナプス形成および成熟異常」が挙げられる。本研究では精神遅滞・広汎性発達障害の病態解明を目的として、申請者の所属研究所が保有する国内最大規模の360家系の精神遅滞・広汎性発達障害患者ゲノムレポジトリー(バイオリソース)を用いて、シナプス関連分子(SYP, RAB39B, GRIA3,SHANK3)に特化した遺伝子解析を行い、精神遅滞・広汎性発達障害患者における遺伝子変異の有無および頻度を把握すると共に検出された遺伝子変異が脳・神経系へ及ぼす機能的影響の検証を行う。 平成23年度はまず上記の4遺伝子について患者における遺伝子変異の有無を明らかとするため、ゲノムレポジトリーのDNAサンプルを用いて、PCR-ダイレクトシークエンス法により各遺伝子のexon-intron境界部分を含む全exon領域の遺伝子解析を行った。なおX染色体上に存在するSYP、RAB39B, GRIA3 遺伝子については患者家系情報からX連鎖性の可能性のある男児患者のみ遺伝子解析を進めている。これまでの結果、SYP遺伝子でナンセンス変異、ミスセンス変異がそれぞれ1例ずつ検出され(患者180例解析/ 健常者100例からは同様の変異なし)、さらにSHANK3遺伝子においてもミスセンス変異が1例で認められた(患者150例解析/健常者未解析)。一方、RAB39B, GRIA3については現在まで165例の解析が終了したが患者特異的な変異は認められていない。検出されたミスセンス変異についてはいずれの遺伝子も機能ドメイン内に存在すること、またアミノ酸置換を起こす変異部位は様々な種においてよく保存されていることから機能的意味を持つ可能性が高いと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度では、精神遅滞・広汎性発達障害バイオリソースにおけるDNAサンプルのSYP,RAB39B, GRIA3, SHANK3遺伝子解析を主に行い、それぞれの遺伝子に対する変異の有無ならびに発生頻度ついて検討してきた。現在までに対象とする全てのサンプルの解析を終了することは出来なかったが、平成24年度で行う予定である患者から検出された遺伝子変異に基づいた機能異常を検証するための実験系の一部の構築が本年度で終了している。このことからも順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
精神遅滞・広汎性発達障害のバイオリソース登録患者数は増えていく予定であり、平成23年度で行った遺伝子解析は随時継続し遺伝子変異の探索を行っていく。 さらに平成24年度においては平成23年度に得られた遺伝子解析結果を基にして、精神遅滞・広汎性発達障害の患者より検出された遺伝子変異について、遺伝子変異が脳神経系へ及ぼす影響について検証するための実験の構築および解析を行う。解析を行うにあたり、遺伝子異常による脳神経系への影響をシナプス形成される脳発達過程に着目し検証することからヒトのサンプルを用いた解析には限界があるためマウスを用い、マウス胎児脳や初代神経培養へ患者より検出された遺伝子変異を導入することで分子生物学的および組織学的な機能評価を行う。 以上の結果を取りまとめ、日本人における精神遅滞・広汎性発達障害患者におけるシナプス機能分子の遺伝子変異保有率の実態把握し、患者臨床情報を整理することで疾患原因の早期診断のための情報を提供する。またこれらの結果について学会、論文等で成果の発表を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度では引き続き継続して行う遺伝子解析やこれまでの解析から得られた変異の機能検証のために行う分子生物学的解析および組織学的解析に用いる試薬・消耗品を購入予定である。また、マウスを用いての実験を行うため、実験動物にかかる費用も計上する。本研究で得られた知見について学会、論文等で成果の発表のための旅費や英文校正費などの謝礼金にも使用予定である。
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