ライソゾーム病のひとつであるサンドホフ病(SD)は、ライソゾーム酵素βヘキソサミニダーゼ(Hex)のβ 鎖遺伝子(HEXB)の遺伝的欠損により、基質であるGM2 を主体とする糖脂質、オリゴ糖などが主に中枢神経系の神経細胞等のライソゾームに蓄積し、重症型では重篤な神経症状を呈して乳児期に死亡する病気である。現時点では細胞移植治療は先天性代謝異常症に対する唯一の根治治療法であり、今後これらの細胞を用いた安全的かつ安定的な新規細胞移植治療の開発が切望されている。本研究はヒト間葉系(幹)細胞およびヒトiPS 細胞をライソゾーム病のモデルマウスに対して移植し、治療効果および安全性を総合的に解析・評価することを目的とした。ライソゾーム酵素は細胞外に分泌され、隣接する細胞に取り込まれる。このメカニズムはクロスコレクションとして知られており、この原理を利用したライソゾーム病に対する細胞治療法の開発が望まれている。ヒト間葉系細胞またはヒトiPS細胞がライソゾーム酵素を細胞外に分泌するかどうかをin vitroで検討した結果、間葉系細胞(EPCおよびYub)に比べiPS細胞では分泌量が2倍以上多いことが確認された。次にSDマウスより樹立した線維芽細胞株(SD cell)とiPS細胞より分化させた細胞を共培養した結果、SD cellに酵素が取り込まれ、in vitroにおける治療効果を確認した。続いて、in vivoにおける治療効果を確認するため、SD-scidマウスに対してiPS細胞を移植し細胞治療を試みた。移植して約50日後に血清中のHex活性を測定したところ、正常マウスの5~15%程度まで酵素活性が回復した。今後は、in vivoにおけるさらなるProof of conceptの取得をめざしていく必要があると考えられた。
|