研究課題/領域番号 |
23791210
|
研究機関 | 独立行政法人国立成育医療研究センター |
研究代表者 |
井上 麻由 独立行政法人国立成育医療研究センター, 生殖・細胞医療研究部, 共同研究員 (40596920)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
|
キーワード | レクチン / 糖鎖 / 糖鎖プロファイリング / 細胞品質管理 / 間葉系細胞 / 増殖能 / 分化能 / 糖鎖融解 |
研究概要 |
ヒト幹細胞移植医療は近年注目されており、特に間葉系幹細胞についてはすでに臨床段階において種々の疾患治療用として利用されている。一方で移植細胞の品質評価は十分とはいえず、移植治療の有効性や安全性の評価を客観的に示す指標がなく、今後一般医療として拡大していくための大きな課題となっている。そこで我々は細胞の状態を示す指標として細胞表面にあり、ES細胞やiPS細胞の未分化マーカーとしてや癌などの疾患マーカーとして多く知られている糖鎖に着目した。我々は最近開発されたレクチンマイクロアレイという技術を用いて、細胞表面タンパク質の修飾糖鎖を網羅的に見る手法を試みた。本年度は、様々な組織由来の間葉系細胞に対して糖鎖プロファイルを実施し、臨床に資する良好な細胞の品質管理のための評価技術となる基盤データを蓄積した。具体的には間葉系細胞の品質を評価する上で重要な、1)継代を重ねた際の細胞の特性変化(増殖性、分化特性など)2)凍結融解前後での細胞の同等性について糖鎖プロファイルによる評価を実施した。その結果、1)継代後の細胞は増殖性、分化能の低下が認められるが、その特性に応じた糖鎖プロファイルの変化を認めた。その中から特徴的な糖鎖構造変化が示唆され、増殖や分化特性を示すマーカーとして有用である可能性が考えられ、現在その詳細について検討を始めた。2)凍結融解を繰り返すと細胞は徐々に増殖能が低下してくるが、実際に表現型として現れてくるのは継代数が5継代以上経過してからである。しかし継代毎の糖鎖プロファイルを実施してみると、その変化は凍結融解後に既に現れていることが明らかとなり、特徴的な糖鎖構造を持っていることを認めた。これは糖鎖が細胞の品質状態(今回の検討では増殖性)をいち早く察知していることを示唆している。現在種々の特性をもつ細胞での再現性について検討している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
レクチンチップにかかる実験をデザインした。様々なデータ供出を行ない論文を執筆した。レクチンチップのデータは、全て糖鎖プロファイラーの操作に熟知した申請者自身の実験データである。またヒト胎児肺線維芽細胞および羊膜細胞由来iPS細胞6株、ヒトES細胞2株、体細胞8株を用いてゲノム網羅的DNAメチル化解析を行った。様々な由来細胞から得られるiPS細胞は、国内外で多数樹立されているが、樹立方法の特殊性より樹立元となる細胞の由来組織の違いや誘導方法によって、得られるiPS細胞の性質が異なることが指摘されており、ヒトiPS細胞を適切に実用化へと導くための科学的なデータの供出に関する基礎となる。また、細胞を様々な角度から検証し、プロファイリングすることで、より詳細な性格付けが可能となる。エピゲノムの観点から細胞を評価する技術と糖鎖プロファイリング技術との連関は今後の研究の基礎となる。
|
今後の研究の推進方策 |
幹細胞の品質評価におけるレクチンマイクロアレイの有効性を検証する。具体的には産総研が最適化したプロトコールに従って様々な組織より得られたヒト間葉系細胞に対し、そのライセート(細胞抽出液)中に存在するタンパク質を蛍光標識し、GPバイオサイエンス社より購入するLecChipを用いた糖鎖プロファイリングを行う。より多くの細胞の糖鎖プロファイリングを実施することで、治療に資する有効性判定データを蓄積する。ここでは50から100種程度の細胞群(分化誘導前後)の解析を想本計画書の規定するが、単なる数値目標の達成ではなく、分化誘導法と得られた糖鎖プロファイル、ならびに有効性評価における相関が明確化できるような細胞選択と解析戦略を重視して研究を遂行する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
平成24年3月31日現在で発生していた残額については、既に3月中に支払いが確定しているため、24年度中に使用する予定はない。当初の交付申請通りの研究費にて研究資材、研究試薬、実験動物を購入予定である。
|