研究概要 |
胎児期、乳幼児期におけるGABAA受容体作動薬に対する曝露は器質的変化を伴う脳機能障害を引き起こすことが知られている。研究代表者はGABAA受容体作動薬への曝露が大脳新皮質原基神経前駆細胞に異常な細胞分裂方向を誘導することを示した(Tochitani et al., 2010)。この結果はGABAA受容体標的薬が神経前駆細胞の形質制御を撹乱し、その結果として中枢神経系に対する催奇形性を呈することを示唆する。本研究ではGABAA受容体標的薬による神経前駆細胞形質制御の攪乱はどの時期に起こるか、撹乱の結果は中枢神経系にどのような器質的変化をもたらすかをより詳細に解明することを目的として解析をすすめた。胎生10-12日の期間、GABAA受容体作動薬に曝露されたマウス大脳新皮質原基において、脳室帯にある神経前駆細胞(apical progenitor)から脳室下帯に位置する神経前駆細胞(basal progenitor)への一過的促進(Tochitani et al., 2011)、神経上皮細胞からラジアルグリアへの変化への促進、神経細胞を生み出す非対称分裂様式を呈す神経前駆細胞の割合の増加、将来大脳新皮質の主にII-IV層の神経細胞となるSatb2陽性神経細胞の割合の増加、主にVI層の神経細胞となるTbr1陽性神経細胞の割合の減少、といった変化が観察された。これらの結果は大脳新皮質発生初期におけるGABAA受容体作動薬への曝露が神経前駆細胞の内在的性質の調節機構を様々な点で攪乱させること、その結果として一過的に異常な神経細胞への分化の亢進が起こることや形成される大脳新皮質の層構造の異常が生じることを示し、これらの器質的変化が胎児期にGABAA受容体作動薬へ曝露された結果生じる脳機能障害の基礎となっている可能性を示唆する。
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