原因不明の新生児慢性肺疾患の成因が胎内環境下のストレス(胎盤感染や絨毛膜下血腫、サイトカイン)による酸化還元環境の変化によって出生前に発症誘導されていると仮定し、ラット肺胞上皮細胞を用いて検討している。 前年度にはL2細胞を用いて サイトカイン前負荷による細胞環境と感受性の変化に焦点を当て、慢性肺疾患に関わる上皮間質転換の検討のため上皮細胞マーカーであるZO-1や間葉系マーカーのVimentinなどを用いて蛍光染色やRT-PCRを利用して比較した。TNFα前負荷後にTGFβを添加することで上皮間質転換が増強された。細胞内酸化還元バランスの決定に重要なチオレドキシンやグルタレドキシンについて酸化還元状態をredox-western blotting法で検討したが前負荷の有無で明らかな差は検出されず、正確な分離が困難であったため検討を中止した。 最終年度には酸化還元状態を決定する重要な因子である細胞内GSHを測定しTGFβ添加により細胞内GSHが低下していることを確認し、SH酸化剤であるDEM (dimethyl maleate)前処置によりGSHが枯渇した状態ではTNFα負荷を行うと上皮間質転換がより増強されることが分かった。さらに活性酸素の関連を検討するため蛍光色素を用いて細胞内過酸化水素を測定し、TGFβ添加やDEM前処置によってTNFα負荷後の細胞内過酸化水素の増加を確認した。その結果から過酸化水素の分解を担うカタラーゼ製剤(EUK-134)の添加が上皮間質転換抑制に有効か検討したところ、EUK-134投与でDEM処置後の上皮間質転換が軽減された。細胞内の酸化還元状態によりストレスに対する細胞の反応(上皮間質転換など)に影響を与える可能性が示唆された。
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