研究課題/領域番号 |
23791251
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研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
河村 七美 秋田大学, 医学部, 助教 (70323152)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 扁平上皮癌 / PI3K |
研究概要 |
我々は本研究課題において、扁平上皮癌の発生過程における phosphatidylinositol-3-kinase (PI3K)のp110触媒サブユニット(p110α)の動的役割を解明し、かつ新規分子標的治療法を模索する。この課題を達成するため、K5-CreマウとPten-flox/floxマウスあるいはPi3k・p110α-flox/floxマウスを交配し、角化細胞特異的Ptenホモ欠失マウス、Pi3k・p110αホモ欠失マウス、Ptenホモ欠失かつPi3k・p110αホモ欠失マウスなど作成することを試みた。 その結果、角化細胞特異的Ptenホモ欠失マウスは、交配を繰り返したにもかかわらず、出生率が低く、生存しても成体にいたるまでに死亡した。そのため、実験に必要な個体数を得ることができなかった。 また、Pi3k・p110αホモ欠失マウスは交配を繰り返したにもかかわらず、全く出生することはなく、胎生致死であることが疑われた。そのため、実験に必要な個体数を得ることができなかった。 そこで、これらの問題点を克服するため、マウスの遺伝子背景をC57BL/からFVB/Nへ変換し、FVB/N遺伝子背景を有する角化細胞特異的Ptenホモ欠失マウスを作成した。しかしながら、このマウスにおいても、出生率が低く、生存しても成体にいたるまでに死亡したため、実験に必要な個体数を得ることができなかった。 そのため、角化細胞特異的Ptenホモ欠失マウスとPi3k・p110αホモ欠失マウスを作成することを断念し、Ptenヘテロ欠失マウスとPi3k・p110αへテロ欠失マウスを用いて、今後の研究を遂行することとした。 現在、交配を繰り返しており、近日中に実験に執拗な個体数を確保できるものと思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまでの研究では、C57BL/6マウスを用いていたが、角化細胞特異的Ptenホモ欠失マウスは出生率が低く、生存しても成体にいたるまでに死亡した。そこで、今回はより大型で、発癌効率の良いFVB/Nマウスを用いることとした。まず、C57BL/6遺伝子背景のK5-CreマウスとPten-flox/floxマウスをFVB/Nマウスと交配を繰り返し, 遺伝子背景をFVB/Nへ変換した。さらに、これらのマウスを交配して、FVB/N遺伝子背景を有する角化細胞特異的Ptenホモ欠失マウスを作成したところ、C57BL/6マウスと同様に出生率が低く、生存しても成体にいたるまでに死亡した。多くの時間をかけて交配を繰り返してみたが、この問題点を克服することができなかった。 この理由を考察すると、K5が食道粘膜上皮でも発現することと関連があるものと思われる。すなわち、角化細胞特異的Ptenホモ欠失マウスでは、食道粘膜上皮でもPtenが欠失しており、そのため食道粘膜上皮の肥厚と食道狭窄による栄養障害が発症しているのであろう。この所見はC57BL/6の遺伝子背景を有するマウスを使用した際にも起こったことであるが、K5プロモーターを使用すると、より高度の異常が生じた可能性がある。
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今後の研究の推進方策 |
FVB/Nの遺伝子背景を有するマウスを使用することを断念し、C57BL/6遺伝子背景を持つK5-CreマウスとPten-flox/floxマウスとPi3k・p110α-flox/floxマウスを用いて、今後の研究を遂行することとした。 まず、K5-CreマウスとPten-flox/floxマウスあるいはPi3k・p110α-flox/floxマウスを交配し、角化細胞特異的Ptenヘテロ欠失マウス、Pi3k・p110αヘテロ欠失マウス、Ptenヘテロ欠失かつPi3k・p110αヘテロ欠失マウスを作成する。 さらに、Ptenヘテロ欠失のため起こる皮膚と附属器の異常が、Pi3k・p110αのヘテロ欠失により回復するかを検討するため、野生型マウス、角化細胞特異的Ptenヘテロ欠失マウス、Pi3k・p110αヘテロ欠失マウス、Ptenヘテロ欠失かつPi3k・p110αヘテロ欠失マウスにTPAを塗布した後に、肉眼的および顕微鏡的性状を比較する。 次いで、Pten及びPi3k・p110αのヘテロ欠失による細胞増殖能やアポトーシス抵抗性の変化を検討するため、培養角化細胞におけるトリチウムチミジンの取り込みや放射線照射後に生存している細胞数を比較する。また、Pten及びPi3k・p110αのヘテロ欠失が創傷治癒に及ぼす影響を検討するため、in vivoにおいて潰瘍形成などの負荷を加えた後の上皮修復能やBrdUの取り込みなどを比較する。さらに、Ptenのヘテロ欠失のため起こるPI3K/AKT経路の下流に想定される分子の発現と活性化が、Pi3k・p110αのヘテロ欠失により回復するかを検討するため、これらのシグナル伝達分子の動態を免疫ブロットにより解析する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度は、免疫染色や免疫ブロットをはじめとする細胞生物学的実験に研究費を使用していく予定である。
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