研究課題
エンドセリン(ET)が血管内皮細胞におけるFli1の転写活性に及ぼす影響およびET受容体拮抗薬が強皮症の血管障害を改善する機序の検討 我々のこれまでの報告により、転写因子Fli1はリン酸化されることによりそのDNA結合能を失いかつ速やかに分解されることで、結果的に転写因子としての機能を失うことが明らかにされている。強皮症患者では皮膚の血管内皮細胞において転写因子Fli1の発現が低下していること、血清中のET-1濃度が上昇していることが知られている。そこで、HDMECsにおいてET-1刺激が転写因子Fli1のリン酸化に及ぼす影響を検討したところ、ET-1刺激はFli1のリン酸化を速やかに誘導した。また、ET受容体拮抗薬であるボセンタンでHDMECsを処理したところ、転写因子Fli1のリン酸化の程度は低下し、蛋白の発現量は亢進した。以上の結果から、ET-1はHDMECsにおいて転写因子Fli1のリン酸化を介してその転写活性を制御していることが示された。 次に、強皮症血管障害モデルマウスである血管内皮細胞特異的Fli1欠失(Fli1 ECKO)マウスを用いて、ボセンタンがその血管障害に及ぼす影響を検討した。同マウスは強皮症に伴う血管障害の様々な症状を再現できるが、まず血管透過性の亢進に注目して検討を行った。Evan blue dye injectionの手法を用いて血管透過性について評価したところ、Fli1 ECKOマウスでは野生型マウスと比較して血管透過性が亢進していたが、Fli1 ECKOマウスにボセンタンを4週間投与すると、その血管透過性の亢進は改善された。 以上の結果から、ET-1が強皮症の血管障害の発症機序に関与していること、ボセンタンがFli1を介して強皮症の血管障害を改善している可能性が示唆された。
1: 当初の計画以上に進展している
初年度にET-1およびボセンタンがHDMECsにおいて転写因子Fli1のリン酸化および転写活性に及ぼす影響を検討する予定であったが、この点に関しては予定通りの実験結果が得られた。2年目にマウスを用いた検討を行う予定であったが、その研究内容の一部は既にデータが得られている。
ボセンタンが強皮症血管障害モデルマウスの創傷治癒に及ぼす影響の検討 我々は予備実験により、Fli1 ECKO miceでは創傷治癒が遅延しており、その主要な機序の一つは新生血管が既存の血管と吻合する過程の異常である可能性を見出した。つまり、Fli1の恒常的な発現低下は定常状態では血管の恒常性を障害し、創傷治癒の過程では新生血管への血液の供給に障害を来たす可能性が考えられる。強皮症においても血管内皮細胞は恒常的に活性化しており、in vitro培養系では著明な血管新生を行うことが知られているが、逆説的に強皮症では創傷治癒が遅延している。その機序は未だ不明であるが、Fli1 ECKO miceを用いた我々の研究結果は、強皮症の創傷治癒において新生血管が既存の血管と吻合する過程に異常がある可能性を示唆している。ボセンタンが強皮症の創傷治癒を改善する一つの機序として、この異常を改善している可能性が考えられる。ここではこの仮説を検証するため、Fli1 ECKO miceをボセンタン投与群と非投与群に分け、創傷治癒の異常が是正されるか否かを検討する。創傷は背部皮膚に6mm生検トレパンで作成し、まず創傷治癒の時間経過を比較する。また、創傷部位の病理標本を作成し、肉芽組織内の毛細血管に注目し、赤血球で満たされた新生血管と赤血球が存在しない新生血管の比率を比較検討する。さらに、創傷治癒後の瘢痕部における血流について、FITC-dextranを尾静脈から注射して蛍光顕微鏡を用いて評価する。最後に、Fli1 ECKO miceにおける新生血管の吻合異常の分子メカニズムについて検討する。ボセンタン投与群と非投与群で皮膚からmRNAを抽出して、血管吻合に関与する各種遺伝子の発現量についてreal-time PCRで検討する。
薬品、実験用細胞、実験用動物、動物飼料、ガラス器具として130万円、研究代表者による研究成果発表の旅費として10万円、学会誌投稿料、英文校正費として10万円を使用する予定である。
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