研究課題
(1)マウス術後リンパ浮腫モデルの確立:マウス後肢足底皮内にエバンスブルー溶液を注射したところ、速やかに大腿部まで青色線状が描出された。皮膚切開を加えて観察したところ、青色に染まった束状物は血管であった。(*エバンス-ブルー以外に、墨汁やパテントブルーといった色素を用いて同様の実験を行ったが、リンパ管のみを染色することはできなかった。)そこで青染はしなかったが鼠径のリンパ節を含む結合組織を一回に摘除(鼠径リンパ節郭清術)し、その後の大腿の周囲径を経時的に測定し、健側(皮切のみ加えた群)における大腿周囲径との比を計測したところ、郭清群と皮切のみの群との間に統計学的な有意差は得られなかった。(2)培養マクロファージにおける脈管形成能を促進させる可能性のある因子として、まずスタチン製剤(シンバスタチン)について、脈管形成能試験により検討した。マトリジェル上で培養したマウス腹腔内由来マクロファージにシンバスタチンによる刺激を加えたところ、シンバスタチン刺激によりマクロファージの脈管形成が有意に促進された。また、その作用はPI3キナーゼ阻害薬であるLY294002により阻害され、PI3キナーゼを介した経路であることが示唆された。(3)術後リンパ浮腫モデル作成が難航したため、糖尿病マウス皮膚全層欠損創モデルを用いて培養マクロファージ移植によるリンパ管新生について検討した。シンバスタチン刺激により前処理を施したマクロファージ群では、PBS群、無刺激マクロファージ群に対して有意に創傷治癒促進効果を認めた。また、創部肉芽組織中のリンパ管新生をLYVE-1免疫染色にて検討したところ、シンバスタチン前処理マクロファージ群で有意にLYVE-1陽性リンパ管が増加していた。以上の結果より、シンバスタチン刺激を加えた培養マクロファージを移植することでリンパ管新生によりリンパ浮腫が改善する可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
マウスを用いた術後リンパ浮腫モデルの確立を目標の一つとしていたが、現時点までの確立は困難であった。その理由として、(1)ヒトと異なりパテントブルーなどの色素によるリンパ管の肉眼的描出が難しいこと、(2)ヒトと異なりマウスは4足歩行のため足趾一本あたりの加重が少ないこと、(3)マウスは個体が非常に小さいためにリンパ節の同定自体が難しいこと、などが考えられた。現在、モデルをマウスからラットに変更し、同様にリンパ節郭清術による術後リンパ浮腫モデルの作成に取りかかっている。まだ統計学的処理、長期の経時的変化、組織学的検討は行えていないが、患肢の浮腫を認める個体を確認している。今後、引き続き検討を重ねていく予定である。 本研究ではリンパ管新生の程度を検討するための代替案として、すでに確立されたモデルである糖尿病マウス皮膚全層欠損創を用いてその後の検討を行った。simvastatinにマクロファージのリンパ管への分化促進作用があることをin vitroで検証した後、simvastatin刺激マクロファージの創部への移植を行ったところ、創部肉芽組織内のリンパ管の新生が確認された。これらの結果は、未だに難治な術後リンパ浮腫に対して新しい治療の可能性を示唆する結果である。また本研究は、自己末梢血由来細胞をもちいる点、simvastatinという現在臨床で使用されている薬剤をもちいる点などより、有効性だけでなく、高い安全性も期待される。今後も臨床応用に向けて基礎実験を積み重ねていく予定である。
今年度は、初年度に確立することができなかった術後リンパ浮腫モデルの作成を第一に推進する。マウスによる術後リンパ浮腫の作成が困難であったため、動物種をラットなどに変更して行うことも考慮する。 また、シンバスタチンによるマクロファージのリンパ管内皮細胞への分化誘導能について、さらなる検討を加える。たとえば、刺激として用いる至適濃度、刺激回数、培養期間など、さらなる詳細な条件を設定し、もっともリンパ管内皮細胞への分化誘導効率がよい条件を検討する。 同時に、シンバスタチン以外にマクロファージのリンパ管内皮細胞への分化を促進する因子を検討し、さらなる術後リンパ浮腫治療の可能性を探究する。
マウス、ラットなどの実験動物、シンバスタチン、マトリジェルなどの研究試薬などの消耗品の購入、学会発表、論文投稿にかかる費用に研究費を使用する予定である。
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J Invest Dermatol
巻: 132(3 Pt 1) ページ: 711-720
J Dermatol
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