Histatin-1(HTN-1)は、唾液腺にのみに発現しているペプチドであるが、我々は、この分子がヒト悪性黒色腫に発現し、浸潤転移に関与している事、免疫抑制活性を有している可能性を見出した。本研究では、悪性黒色腫で発現しているHTN-1の意義を解析する。具体的には、①HTN-1が悪性黒色腫の浸潤・転移・免疫抑制などに関与しているか、②組織、血中のHTN-1を測定し、悪性黒色腫の診断、予後マーカーとして使用できるか、③HTN-1が治療の標的となるか、④HTN-1の免疫抑制活性のメカニズムは何か、について検討する.我々はこれまでに、HTN-1は、抗菌作用以外の新たな機能として、細胞運動亢進作用と樹状細胞の抑制作用を持ち、さらに、悪性黒色腫に異所性に発現しており、癌細胞の転移や免疫抑制に関与している可能性をin vitroで示した。今年度は、in vivoにおけるHTN-1の機能を評価した。HTN-1を強制発現したヒト悪性黒色腫細胞株をヌードマウスに皮下移植し、3-4週後に脾臓及び腫瘍浸潤の樹状細胞を解析した所、マウス樹状細胞の機能低下が見られた。また、所属リンパ節及び肺転移している癌細胞数の増加が見られた。一方で、HTN-1を高発現しているヒト悪性黒色腫細胞株でshRNAを用いてHTN-1の発現をノックアウトすると、マウス樹状細胞の機能回復が見られた。以上の結果より、HTN-1はヒト悪性黒色腫で異所性に発現し、分泌され、癌細胞の転移と免疫抑制に関与し、患者予後に影響を与える可能性が示唆された。HTN-1は腫瘍マーカーとして、及び転移の予防や癌による免疫抑制の解除を目的とした治療法の標的として有望であることが示唆された。
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