研究課題/領域番号 |
23791303
|
研究機関 | 独立行政法人国立がん研究センター |
研究代表者 |
江川 長靖 独立行政法人国立がん研究センター, 研究所, 研究員 (90533399)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
キーワード | HPV / 皮膚感染症 / 皮膚腫瘍 / ウイルス / パピローマ / 生活環 / ウイルス複製 |
研究概要 |
正常皮膚不死化細胞株(HDK1K4DT)を用いて野生型および変異型組み換えヒトパピローマウイルス(HPV)ゲノムを保持する細胞の樹立に成功した。HDK1K4DT細胞株は、これまでの子宮頚部上皮不死化細胞株と比較して、分化誘導能をもち、3次元分化誘導培養では角層形成まで分化誘導が可能である。それを用いてE1蛋白質の3つの異なるphaseにおけるウイルスゲノム複製機構の解明を行い、E1蛋白質が初期複製・複製に必須であるが維持複製には必要でないことを示し、発表した。このことは、ウイルスがその生活環において、2つの機構を使い分けていることを示している。ウイルス蛋白を必要としない複製機構は宿主側の免疫機構刺激しにくく、持続感染に有利に働いている可能性がある。また、E1は抗ウイルス薬の標的として期待されておりE1阻害剤の開発が試みられている。しかし、我々の結果から示されるように、E1を阻害しても維持複製が阻害されないことは、E1阻害剤の効果は限定的なものになることが考えられる。加えて、この過程で開発したFLP-FRT系を用いた外来遺伝子の発現制御系と変異型組換えHPVを用いることで、HPVの任意の蛋白質の機能を生活環の中で検討することが可能となった。今後E1にとどまらず、E6、E7、E2の検討へと応用が可能である。また、我々の発見したHPV126型は扁平疣贅様臨床形態をもつが、病理組織学的には細胞内封入体をもち表皮肥厚は顕著ではないが,Ki-67染色で角層直下まで陽性であるなど、特異な「HPV型特異的細胞変性効果(CPE)」を示していた。このHPV126ゲノム全長をクローニングし、病理組織学的特徴と共に発表した。近年新型HPVの報告の多くはDNA配列のみで、臨床像などのCPEの記載がなく、シークエンスから臨床像、組織学的特徴まで記載されたHPV126の報告は意義深いと考えられる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定であった、Cre/loxP系を使ったHPV16ゲノム保持上皮正常細胞株の樹立に子宮頚部上皮不死化細胞(HCK1T)および正常皮膚不死化細胞株(HDK1K4DT)を用いて成功した。特に、HDK1K4DTを用いた場合、3次元分化誘導培養ではHCK1Tとは違い角層までを含む過形成が再現された。それを用いてE1蛋白質の3つの異なるphaseにおけるウイルスゲノム複製機構の解明を行い、E1蛋白質が初期複製・複製に必須であるが維持複製には必要でないことを示し、第27回国際パピローマウイルス会議で発表し、論文として発表した。この過程で開発したFLP-FRT系を用いた外来遺伝子の発現制御系と変異型組換えHPVを用いることで、HPVの任意の蛋白質の機能を生活環の中で検討することが可能になり、以後の研究を促進すると考えられる。また、ウイルス粒子産生に関しては予備実験段階である。E1E2をexogenousに発現させるとHPVゲノムを10倍以上に増幅されることを確認した。また、Caを添加しての平皿上で分化誘導を行い、ゲノムからウイルスカプシド蛋白質の誘導を確認した。現在、分化誘導後細胞株よりのウイルス粒子回収を試みているところである。また、ウイルスゲノム維持をモニターする系として、L2L1領域にレポーター遺伝子を挿入したHPV16ゲノムを作製し、そのウイルスゲノムを持つウイルス粒子を産生することに成功した。これらを、293T細胞に感染させたところ、レポーター遺伝子の発現を確認した。これらを用いて、ウイルス粒子の感染から初期複製、維持複製等、生活環を通しての研究を行える環境が整った。また、特異的なHPV型特異的細胞変性効果(CPE)を持つHPV126を発見し、ゲノム全長をクローニングし、病理組織学的特徴と共に論文として発表した。
|
今後の研究の推進方策 |
FLP-FRT系を用いた外来遺伝子の発現制御系と変異型組換えHPVを用いることで、HPVの任意の蛋白質の機能を生活環の中で検討することが可能となり、実際、ウイルス初期遺伝子に変異を入れたウイルスゲノムの作製およびFLP-FRT系でそれらのウイルス遺伝子の発現制御系を作製中である。作製後は、それぞれのウイルス蛋白質の、生活環での機能を検討する予定である。ウイルスゲノム維持をモニターする系として、L2L1領域にレポーター遺伝子を挿入したHPV16ゲノムを作製した。レポーター遺伝子はGFPと分泌型ルシフェレースを選択しており、それぞれ、HPVゲノム保持細胞がGFP蛍光を呈する細胞として観察できる、HPVゲノムの平均量を培養上清を用いて簡便に定量できる等の利点があると考えられる。現在、293T細胞に導入したところ、レポーター遺伝子の発現は確認できるが、初期複製を行っていないことを示唆するデータが得られている。初期複製時のE1E2の供給がウイルスゲノムからの新規合成なのか、ウイルス粒子から蛋白質として供給されるのか検討中である。また、分泌型ルシフェレースをレポーターとして用いた系で、正常皮膚不死化細胞株(HDK1K4DT)に導入した細胞株の樹立を試みており、ゲノム量とルシフェレース活性の関係やどの程度長期にわたって維持複製をモニターできるか評価中であり、最適なコンストラクトが同定できれば報告し、維持複製阻害剤のスクリーニング系として応用を考えている。ウイルス粒子作製では293T細胞を用いて他研究室と同様安定したウイルス粒子を作製することに成功したが、報告通りウイルスゲノムのパッケージング効率は低い。今後、ウイルスゲノムを保持する正常上皮細胞株を用いてE1E2の誘導によるゲノムの増幅、分化誘導を用いてのカプシド蛋白質の誘導、ウイルス粒子の作製を試み、高収量のウイルス粒子作製を試みる。
|
次年度の研究費の使用計画 |
培養関連消耗品:正常上皮不死化細胞株を主に用いる。正常上皮細胞株の培養には無血清の専用培地を用いており、一般的な培地と比べて10倍程度高価である。ウイルス粒子作製のため、正常上皮細胞を用いた分化誘導培養を多量に行う予定である。ウイルス粒子作製関連:ウイルス粒子を作製するのに293T細胞を用いた系および正常上皮細胞株を用いた系を用いる。トランスフェクション試薬およびウイルス粒子精製用試薬を購入する。ウイルス粒子の精製には超遠心機を用いる予定である。コンストラクト作製・分子生物学的試薬の購入:今後も、実験の進展に応じで適宜必要なコンストラクトを作製していく。また、関連のレンチウイルス・レトロウイルスベクターも作製する。変異体作製も頻繁に行う予定で、コンストラクトサイズも大きいため、シークエンスの確認等にも比較的費用が掛かる。分析用試薬:ウイルスゲノムの保持量をモニターするため、サザンブロッティング、リアルタイムPCRを行う予定である。そのための試薬を購入する。ウイルスゲノムモニター用としてルシフェレース選択しており、その測定のためルシフェレース活性測定キットを購入する。ウエスタンブロッティング用試薬等購入する。学会発表:成果の発表のためウイルス学会および国際パピローマウイルス会議での発表を予定している。
|