ヒト初代角化細胞(HPEK)にアデノウイルスを用いてBnip3を強制発現させたところ、皮膚の分化マーカーの発現が上昇することを確認した。また、Bnip3はマウス表皮ならびにヒト3次元構築表皮の顆粒層に発現することを見出した。表皮では、分化にともなってミトコンドリアや核が減少するため、Bnip3がオートファジーを起こすことによって、表皮最終分化に関与すると予想した。予想通り、BNIP3の強制発現はオートファジーを介して分化を促進し、BNIP3のノックダウンによって、オートファジーならびに分化の抑制が確認された。 また、今回我々は、HPEKにUV-Bを照射することで、Bnip3の発現が誘導されることを見出した。そこで、Bnip3を強制発現もしくはノックダウンしたHPEKにUV-Bを照射したところ、Bnip3を強制発現したHPEKでは細胞死が抑制され、逆にBnip3をノックダウンしたHPEKでは細胞死が促進されていることが確認された。面白い事に、これらの細胞を10日間ほど培養し続けたところ、Bnip3を強制発現した細胞は分化がすすみ、角質細胞様の細胞構造が形成された。しかし、Bnip3をノックダウンした細胞ではそのような細胞構造の形成は見られなかった。 また、Bnip3の発現を制御する転写因子を探索するために、in silicoでのBnip3プロモーター解析を行ったところ、Hes1の結合領域が何箇所かに存在することを見出した。そこで、HPEKにHes1を強制発現させ、ChIP解析を行ったところ、Hes1が直接Bnip3のプロモーターに結合することが確かめられた。また、Hes1を強制発現させることにより、Bnip3の発現が抑制されることも見出した。このことから、角化細胞中ではHes1は直接的にBnip3の発現を抑制していることが示唆された。
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