本研究の主な目的は、児童青年期にserotonin reuptake inhibitor (SSRI)を投与した場合に生じる自殺リスク増加の原因を脳科学的観点から明らかにすることである。具体的には、衝動性と自殺リスクの関係に着目し、適切な動物モデルを開発してSSRIが衝動性に与える影響を発達の各時期に分けて検討した。 幼若ラットを用いた衝動性測定課題の実施には困難が伴うためにほとんど実施されてこなかったが(詳細は計画書参照)、H23年度の研究によりその方法の開発に成功した。この成果により、これまでの衝動性研究を発達研究とリンクさせることが可能となった。 この方法を用いて幼若ラットにSSRIを投与したが、衝動性の亢進は観察されなかった。この結果とヒトの先行知見を合わせて考えると、SSRIによる衝動性亢進効果は単純なものではなく、何らかの交互作用が生じていると考えられた。SSRIによる自殺誘発はあくまで低頻度であることを踏まえると、比較的稀な遺伝的特徴がSSRIの衝動性亢進作用の条件ではないかと推測される。そこで、「5-HT2C受容体の機能に異常がある場合においてのみSSRIの衝動性亢進が生じる」を立て、薬理学的に5-HT2C受容体をブロックし、同時にSSRIを投与する実験を行った。その結果、ラットの衝動性は有意に上昇した。さらに5-HT2C受容体欠損マウスを用いて仮説の検証を進めたが、SSRIの投与による衝動性上昇は生じなかった。このように、遺伝子改変マウスではラットでの結果と一致する結果が得られなかったことため、明確な結論を出すことはできなかった。
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