統合失調症は妄想・幻覚を主体とする精神症状が現れる代表的な精神疾患である。アスペルガー障害は自閉症スペクトラム障害の1つで知的機能が高い一群であるが社会性が低下している発達障害の一種である。これらには共通して社会性に関する認知機能の障害が見られる。例えば他者とのコミュニケーション場面で相手が不機嫌な表情になった時に健常者(定型発達者)はすぐにその表情変化と感情を理解することが出来るが、統合失調症患者やアスペルガー障害患者は理解するのが難しい。本研究では、統合失調症患者とアスペルガー障害について様々な社会認知能力について、類似する障害とそうでない障害につて、行動レベルから神経機能のレベルまで明らかにすることである。注目した社会認知領域は、①表情認知(静止画を提示し、情動の種類、強度を判定させた)、②生物知覚(biological motion刺激を提示し、評価させた)、③共感化能力(情動を喚起する文脈を提示して、他者は自身がどのような情動が喚起されるか評価させる)である。これら三領域について、統合失調症、アスペルガー障害、対照健常者群で行動課題の成績を比較したところ、これらの中で、生物知覚(biological motion)について、検出能力が統合失調症患者群で低下していることが分かった。他の二領域については統合失調症、アスペルガー障害群とも健常者群よりも成績が低下するが、これら二群では成績低下に相違は見られなかった。これらのことから、我々が検討した社会認知領域について確かに統合失調症、アスペルガー群は低下が観察されたが、社会知覚(biological motion)は統合失調症でより不良であることが示された。生物知覚は特に上側頭領域が関与することから、アスペルガー障害と統合失調症患者群の社会認知障害の相違はこの部位の器質的・機能的異常の相違に由来することが示唆された。
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