研究課題/領域番号 |
23791316
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
井口 善生 金沢大学, 医学系, 助教 (20452097)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 意思決定 / 側坐核 / ドーパミントーン / 興奮性シナプス伝達 |
研究概要 |
本研究は,側坐核内の細胞外ドパミン濃度(=ドパミントーン)が線条体背内側部と背外側部の機能的バランスを制御し,意志決定のモードの切り替えを行う,という仮説を提案し、この仮説を,動物の側坐核特異的にドパミントーンをin vivo操作して検証することを目指している。初年度は、ドパミン部分作動薬であるアリピプラゾールを慢性投与することで、側坐核のドパミントーンの操作を試みた。まず、5mg/kgという、比較的高用量のアリピプラゾールを、動物にとって予測不能な慢性ストレスを3週間連続で負荷したラット(=大うつ病モデル)に、ストレス負荷終了後より、3週間連続投与し、対照群、SSRI投与群と側坐核のシナプス機能についてウエスタンブロット法を用いて解析した。この高用量のアリピプラゾールは、ヒトでは統合失調症や双極性感情障害の急性期に用いられる用量に相当し、ドパミントーンを遮断する方向で作用すると期待される。実験の結果、慢性ストレス負荷後の側坐核では、興奮性シナプスのシグナル伝達に欠かせないNMDA型グルタミン酸受容体の足場タンパク質であるPSD-95が膜分画で増加していたが、この増加はSSRIで更に増強される傾向を示した(ただし、個体差が大きく、顕著に増加する群と、そうでない群に分かれた)。一方、高用量のアリピプラゾールは慢性ストレス負荷で増加したPSD-95を正常化する方向に作用した。以上の結果は、高用量のアリピプラゾールが側坐核において、慢性ストレス負荷やSSRIによって誘発される過剰な興奮性シナプス伝達を正常化する可能性を示唆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度には一般に大うつ病の臨床治療に用いられる低容量のアリピプラゾール(この場合、高用量の場合とは反対に、ドパミントーンを増強すると予想される)による実験も行う予定であったが、残念ながら動物実験に予定以上の時間を要し、果たせなかった。同実験は次年度に施行予定である。
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今後の研究の推進方策 |
低容量のアリピプラゾールについても初年度と同様の実験を行う他、SSRIと低容量アリピプラゾールを併用した場合(=ヒト大うつ病臨床における増強療法に相当)についても同様の検討を行う。また、上記実験にて行動実験も行い、ドパミン依存性の行動(移動活動量や報酬関連学習)あるいは意思決定(習慣化の促進など)がどのような影響を受けるかについても詳細な検討を行う。以上の実験によって、側坐核興奮性シナプス伝達系において、大うつ病治療の標的となりうるドパミン依存性の意思決定に関わる重要分子の特定を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
動物の購入飼育費、行動実験用消耗品の購入費、試薬の購入費、学会出張費、謝礼及び論文出版費などに使用する予定である。
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