研究課題
健常成人30人を対象として、類似度を変化させた視覚刺激のペアを用いて遅延見本合わせ課題を用いた実験を施行した。課題遂行中の脳活動を高解像度の機能的MRIという手法で計測して特に海馬周辺の領域に注目して解析した。 結果は類似度が高い条件では正答率が低下し、反応時間は延長した。海馬の活動は記銘、保持、想起の時期で海馬の頭部と尾部の活動は変化を示した。中でも頭部では記銘時においてのみ刺激の類似度による活動変化を示した。頭部内側のCA1では類似度が高くなると線形に活動低下するのに対し、頭部外側の歯状回やCA3では同一刺激のペアの条件のみで活動が低下し反応様式が異なった。類似度の高い条件での頭部内側と頭部外側の活動は共に抑うつ気分(ベックうつ病スケール)の程度と高い負の相関を示し、その相関は類似度が高い条件で特に強かった。さらに誤答時よりも正答時の活動が強かった。また、抑うつ気分と記銘時の活動が相関する部位を海馬全体から探すと頭部外側においては歯状回やCA3の領域のみならずCA1領域でも負の相関を示し、特に類似度が高い条件で相関が強まることが明らかになった。 これらの結果から健常者における海馬の頭部外側部の歯状回やCA3がpattern separationに強く関与し、健常者の気分によってその活動が変化することを示した。さらにうつ病をはじめとした気分障害患者でも気分によって海馬の活動が変化し、その活動を測定することで気分のバイオマーカーとなり得る可能性を示唆しいている。 この成果は日本神経科学大会、Society for Neuroscience 2012で発表した。現在、投稿に向けて論文を執筆中である。
2: おおむね順調に進展している
研究費の交付内定を受け取る前から準備を進めていたために、健常者の機能的MRI実験のデータ取得と解析を予定通り終え、平成24年度以降に予定していた学会発表での成果発表を出来た点では予定以上の進展と言える。しかし、若手研究(B)の新規採択分交付内定が遅延した影響で、灌流MRI実験の準備としての海外で行われるFSL & FreeSurfer講習会への参加申し込みは間に合わず、平成24年度に延期して参加することとした。
健常成人を対象とした機能的MRI実験を実際に施行してみて被験者の感想や行動データから明らかになったことは、課題の難易度が高いために誤答が比較的多いことである。今後、うつ病患者を対象に実験を行うことから難易度を多少下げることも視野に入れて、うつ病患者を対象に予備実験をする必要がある。また、これまでの結果から注目する点が主に記銘と想起時に絞られたため、今後用いる課題において記銘と想起のセッションを分離して、脳活動の検出感度を向上させるなどの工夫によって撮像時間の短縮を図り、被験者の疲労に配慮したい。 もし仮に現在用いている遅延見本合わせ課題で患者群と対照群に行動や脳活動の差を認めない場合には、先行研究では情動喚起時にうつ病患者の行動特徴が顕在化しやすいことが指摘されており、情動喚起する刺激を用いたPattern separationに課題を修正して、患者と健常者の比較をする必要があるかもしれない。
患者及び健常者を対象とした機能的MRI実験を施行するために、被験者や実験補助者への謝金で、40万円程を見込んでいる。また、データ解析の量的負担が大きくなるために解析用コンピュータを購入する予定である。さらに平成23年度に参加できなかったFSL & FreeSurfer講習会の旅費および参加費に使用する予定である。
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Psychopharmacology
巻: 208 ページ: 589-597
10.1007/s00213-011-2353-x