精神疾患は、発達過程における環境要因(母体のウイルス感染などの物理化学的因子と養育環境などの心理社会的因子)と生得的に持っていた脆弱性因子(遺伝要因)が相互的に作用して発症に至ると考えられている。すなわち、周産期において遺伝要因を含めた何らかの原因による脳発達障害により精神障害に対する脆弱性が形成され、思春期以降における薬物摂取や社会的なストレスにより精神疾患を発症するもので、Two-hit仮説と呼ばれる。二本鎖RNAアナログのpolyriboinosinic acid-polyribocytidylic acid(Poly I:C)を新生児期のマウスに投与することで、発達期のウイルス感染が若年期に精神異常発現薬のフェンシクリジン(PCP)による情動・認知障害に脆弱性を与えるか検討を行った。PCP(10 mg/kg s.c.)の14日間連続投後に認められる運動過多、断崖回避試験における衝動性の亢進、社会性行動試験における社会性行動の低下および新奇物体認識試験における物体認識記憶の低下は7日間のPCP連続投与では認められなかった。しかし、新生仔期にPoly I:Cを投与しておくと、PCPの7日間連続投与後の各種精神機能行動は、PCPの14日間連続投与のそれらと同程度まで障害されていた。新生仔期にPoly I:C、若年期にPCPを投与した群の前頭前皮質において、グルタミン酸トランスポーター(GLAST)のタンパク発現の増強が認められ、前頭前皮質にその阻害剤(DL-TBOA)を投与すると、認知機能障害は緩解された。以上の結果から、新生仔期のPolyI:C処置は若年期でのPCP連続投与による行動異常を増強させたことから、新生仔期の免疫異常は若年期まで遷延し、精神異常発現薬に対して脆弱化させ、そのような行動障害は前頭前皮質におけるGLASTの過剰発現が関与していることが示唆された。
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