研究課題
せん妄は臨床現場において高頻度に遭遇する病的状態であるが、その症状発現の生物学的基盤はいまだ明らかとなっていない。本研究では段階的に(1)不眠における時計遺伝子の発現量を評価し、不眠の主観的表現型(入眠障害、中途覚醒、早朝覚醒、熟眠困難)及び、検査による客観的な睡眠覚醒状態との関連を明らかにする(2)より複雑な病態であるせん妄において時計遺伝子発現量がどのような変異をきたしているか検討を行う(3)せん妄は発現前に不眠症状を呈することが多く、せん妄発現前に時計遺伝子発現量の評価を行い、せん妄発症の予測因子となりえるか調べる(4)治療介入に伴う症状改善時の時計遺伝子発現量の前後評価を行い、治療効果判定のバイオマーカーとして有用であるか検討を行う。以上を主目的として研究を進めている。平成23年度は、本研究の主なターゲットとなる時計遺伝子の測定を安定して行うこと、また、実臨床においてヒトの時計遺伝子発現量をどのように測定することが、将来的な臨床応用につながるのか探索的な検討を行った。本研究結果を不眠症状を有する患者およびせん妄患者に応用することにより、現在は不眠、せん妄に対し予測因子もなく観察による症状評価のみに頼っている臨床現場において、不眠症状の重症度評価やせん妄を早期発見・発症予測するバイオロジカルマーカーを同定することにつながり、新しい診断方法や予防介入、治療評価への臨床応用に展開されることが可能になるものと考えられる。
2: おおむね順調に進展している
研究計画当初に予定していた、毛母細胞からの時計遺伝子抽出は、すでに方法としては発表がなされており(Akashi M, et al. Noninvasive method for assessing the human circadian clock using hair follicle cells. Proc Natl Acad Sci USA. 107:15643-8. 2010)、単回の測定には非侵襲的な方法であると考えられるが、種々の疾病に罹患している患者に対しては、心理的侵襲性や脱毛の懸念があり、測定対象とする試料を血液中の単球および口腔粘膜細胞として、ターゲットとなる時計遺伝子測定を行うこととした。このため、これらの試料を用いた測定系で安定した評価ができるように探索的な検討を進めている。
今後の本研究課題の推進方策として、健常人および概日リズムの乱れを来した状態を評価する方法を引き続き探索するとともに、これらを応用し、慢性不眠症状を有する患者における、その症状特性(入眠困難、中途覚醒、早朝覚醒等)と時計遺伝子発現量の関連、治療介入による各因子の検討を引き続き行い、対象者数を増やし結果の信頼性・妥当性の評価を行う。また、不眠症状を伴うさらに複雑な生物学的なモデルであるせん妄患者を対象とし、睡眠覚醒状態評価及び時計遺伝子発現量測定を行い、せん妄の発症にかかわる時間生物学的基盤の解明を行う予定である。
当初の予定に従い、慢性不眠症状を有する患者およびせん妄患者の発症予測および治療効果判定のために時計遺伝子発現量を測定するため、Taqman プローブ法を用いてリアルタイムPCRにて定量、比較検討を行う。このための測定キットを購入予定としている。また、安定した測定系の確立のため、健常人ボランティアに協力を得る予定にしている。この対象者に対しては少額の謝金を支払う予定であり、次年度の研究費から使用する計画である。
すべて 2011
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (4件)
睡眠医療
巻: 5(2) ページ: 135-139
総合臨床
巻: 60(8) ページ: 1676-1681
Qual Life Res
巻: 20 ページ: 439-446