研究課題/領域番号 |
23791331
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
山森 英長 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 寄附講座助教 (90570250)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 統合失調症 / CHI3L1 / ヒト脳表現型 |
研究概要 |
本研究では、申請者らが、日本人サンプルを含むメタ解析において、統合失調症との関連を報告した、CHI3L1遺伝子の、認知機能、脳MRI画像、性格傾向、認知課題時の脳血流変化、神経生理機能などのヒト脳の表現型との関連を検討し、またその遺伝子の発現変動、動物や細胞レベルでの機能等も網羅的に検討することを目的としている。まず、統合失調症とCHI3L1遺伝子との関連を明らかにするために、統合失調症患者および健常対照群の死後脳やリンパ芽球におけるCHI3L1遺伝子発現測定し、統合失調症患者由来リンパ芽球において、CHI3L1遺伝子発現が変化している事を見出した。また、リンパ芽球におけるCHI3L1遺伝子発現とリスク多型との関連も見出した。CHI3L1遺伝子のリスク多型が、統合失調症患者由来の血清においても、CHI3L1遺伝子由来の蛋白であるYKL-40の量に影響を与える事も見出した。次に、統合失調症のリスクに関連するといわれている神経生物学的な表現型である記憶、知能などの認知機能、性格傾向、脳MRI画像、神経生理機能とCHI3L1遺伝子リスク多型の関連を検討しており、現在までに、CHI3L1遺伝子のリスク多型が、性格傾向である自己超越性Self-Transcendence (ST)に影響を与える事を見出している。本研究の独創性・新規性は、脳科学、遺伝学、分子生物学の技術を統合してヒトの脳神経回路の分子メカニズムを解明する点である。申請者は、CHI3L1遺伝子の発現変動、CHI3L1遺伝子リスク多型の血清中の蛋白への影響、性格傾向への影響を見出した。CHI3L1が統合失調症と多面的に関連していることが示されてきており、統合失調症における分子遺伝学的基盤に、CHI3L1が重要な役割を果たしている事が明らかになり、疾患の予防、早期診断、早期介入および治療に役立つ事が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
統合失調症と健常者35例ずつの死後脳サンプルと45例ずつのリンパ芽球サンプルからTotal RNAを抽出し、CHI3L1遺伝子発現量をリアルタイムPCR法にて測定、統合失調症患者由来リンパ芽球において、CHI3L1遺伝子発現が変化している事を見出した。リンパ芽球におけるCHI3L1遺伝子発現はリスク多型とも関連していた。統合失調症と健常者19例ずつの血清サンプルを用いて、CHI3L1遺伝子由来の蛋白であるYKL-40の発現をELISAキットで測定し、血清中のYKL-40の量がCHI3L1遺伝子のリスク多型で多い事を見出した。次に、統合失調症に特徴的に障害され統合失調症のリスクに関連するといわれている神経生物学的な表現型である中間表現型とリスク多型の関連を検討している。中間表現型として、記憶、知能などの認知機能、性格傾向、脳MRI画像、神経生理機能を測定したゲノムサンプル(統合失調症約100例と健常者約300例)を用いている。現在までに、CHI3L1遺伝子のリスク多型が、Temperament and Character Inventory (TCI)における、自己超越性Self-Transcendence (ST)に影響を与え、リスク多型においてSTのスコアが高い事を見出した。CHI3L1遺伝子の発現変動、CHI3L1遺伝子リスク多型の血清中の蛋白への影響、性格傾向への影響、とCHI3L1が統合失調症と多面的に関連していることを、脳科学、遺伝学、分子生物学の技術を統合して示す事ができてきており、概ね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、統合失調症に特徴的に障害され、統合失調症のリスクに関連するといわれている神経生物学的な表現型である中間表現型とCHI3L1遺伝子リスク多型の関連を検討していく。中間表現型として、性格傾向に加え、記憶、知能などの認知機能、脳MRI画像、神経生理機能へのCHI3L1遺伝子リスク多型の影響を、これらを測定しているゲノムサンプル(統合失調症100例と健常者300例)を用いて行っていく。また、平成23年度に引き続いて、健常対照群および患者群のリクルートを継続して行い、これまで確認されたCHI3L1の発現変化や、CHI3L1遺伝子リスク多型の血清中YKL-40への影響、TCIにおける自己超越性への影響をさらに多くのサンプルにおいて検討していく。次に、培養神経細胞や、統合失調症患者由来のリンパ芽球を用いて、CHI3L1の細胞保護作用への影響等の機能解析を行う。CHI3L1発現量と、認知機能、生理学的検査の特徴および臨床症状との関連についても検討していく。
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次年度の研究費の使用計画 |
薬品:サンプル収集を行うためのDNA、RNAの抽出用の試薬、リンパ芽球の培養を行うためのメディウム、血清、mRNA やタンパクを抽出する試薬、電気泳動に必要な試薬、リアルタイムPCRの試薬やタンパクの抗体などを購入する。旅費:日本生物学的精神医学会や日本神経科学学会における成果発表や、打ち合わせのための国内旅費や、さらに研究成果を世界で最大規模の神経科学の学会であるSociety for Neuroscienceにて発表するための外国旅費が必要である。謝金:健常被験者のデータを比較対象群として要するため、彼らに支払う謝金が必要である。
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