研究概要 |
「こころのリスク・統合失調症外来」を受診した患者のうち、発症リスク状態の包括的評価尺度(Comprehensive assessment of at risk mental states ; CAARMS)において発症危険状態(At Risk Mental State ; ARMS)と診断された8名の患者を対象としてSCID、陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)、病識評価尺度(SAI)、全般的機能評価尺度(GAF)、臨床的全般改善度(CGI)、精神障害者社会生活評価尺度(LASMI)を用いて詳細に臨床評価を行ったのち、これらの患者を外来で6か月から1年にわたり症状の経過観察を継続した。経過観察期間中8名のうち4名が統合失調症と診断され、4名はその他の疾患(広汎性発達障害、適応障害)と診断された。 これら8名の患者からあらかじめ採取した血液サンプルからRNAを抽出し、Affymetrix社の3’IVT Arrayを用いて網羅的に遺伝子発現解析を行った。RNAの抽出の過程で、2検体で十分な濃度のRNAを抽出できなかったため、以後の解析には6例のサンプルから得られたデータを用いた。なお、この6例では3例が統合失調症と診断されている。 解析の結果、genome-wide significanceを満たすP値は得られなかった。最も小さいP値は染色体6p12領域のglutamate-cysteine ligase, catalytic subunit遺伝子で見られP=0.000037であった。 本研究の結果からは、ARMS状態からその後の統合失調症への移行する群と移行しない群の両群を鑑別するためのバイオマーカーとなるような遺伝子発現の差は見い出せず、過去に統合失調症との関連が指摘されている領域にも、一致した所見は得られなかったが、今後さらにサンプルを増やして検討を続ける予定である。
|