本研究では、早期効果発現を示す抗うつ薬開発、気分障害の病態解明を目標とし、うつモデルマウスにおいて、グリア由来神経栄養因子であるglial cell line-derived neurotrophic factor (GDNF) 発現量低下を認めたこと、グリア系培養細胞(C6細胞)における抗うつ薬投与によるGDNF mRNA発現量亢進に着目して研究を進めてきた。研究経過からはニューロン系培養細胞であるN2a細胞でも同様に抗うつ薬の添加により、GDNF mRNA発現量の亢進を認めた。更に、研究経過中にヒストン脱アセチル化酵素であるhistone deacetylase 4 (HDAC4) の関与も判明してきた。HDAC4過剰発現は抗うつ薬によるGDNF mRNA増加を抗うつ薬のみよりも有意に抑制していた。また、C6細胞、N2a細胞でともに抗うつ薬添加によりHDAC4が核外移行することをimmunofluorescence microscopy法により確認、更にwestern blot法でもkitを用いて細胞質と核を分離した後に検討を行ったが、核から細胞質への移行が蛋白レベルで確認できた。ChIP assy法により、双方でGDNF promotor領域で抗うつ薬添加時にHDAC4のリクルート量が減少していることも確認した。また、それらの変化に伴ってHDAC4のリン酸化レベルが増加していることも発見した。動物実験においては内側前頭前野に抗うつ薬と同時に特異的HDAC4抑制剤を局所的に投与することで、抗うつ効果が早期に発現することも発見した。その際のGDMF mRNA発現量も増加していた。以上のことからは、抗うつ薬はHDAC4を介したヒストン修飾を介してGDNF発現量を増加させることで、抗うつ効果を示す可能性が示唆された。
|