研究概要 |
【目的】現在、うつ病に関する診断的バイオマーカーは確立されておらず、客観的指標に乏しいことがうつ病の適切な診断治療を困難にしている。またうつ病患者はまずプライマリーケア医を受診することが多く、精神科医でなくても早期診断に応用できる簡便かつ客観的な指標は、うつ病の発見率と治療率を向上させる。そこで今回我々は末梢血白血球中の遺伝子発現パターンを利用したうつ病の診断的バイオマーカーの作成について検討を行った。 【対象・方法】26名の未治療のうつ病患者と性・年齢をマッチさせた28名の健常対照者を対象とし、末梢血中白血球中の遺伝子発現について解析した。これまでにうつ病患者において有意な変化が報告されている遺伝子、健常者にLiを投与した際に有意な変化が見られた遺伝子、うつ病の候補遺伝子のうち白血球で発現していることが確認できた遺伝子の中から40の候補遺伝子の遺伝子発現パターンに基づいて、うつ病と健常対象者を弁別することを試みた。 【結果】うつ病で有意に発現量の変化が認められた12の遺伝子(PDLIM5, PDE4B, SLC6A4, VEGFA, IL1B, HDAC5, FOS, STAT3, PDGFC, NSUN7,ARHGAP2,IL1R2)の発現量を用いてMDD-scoreを算出し、MDD-scoreが正の値をとる場合をうつ病、負の値をとる場合を健常対象者と評価してうつ病と健常対象者との弁別を試みたところ、感度:74.1% , 特異度:84.0%で両者を弁別することが可能であった。 【考察】今回の結果は、うつ病診断におけるバイオマーカーとして末梢血白血球の遺伝子発現パターンが利用できる可能性を示すものである。今後、異なるコホートを用いた再試験を実施し、今回の結果が再現可能かどうかを検証する必要があると思われる。
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