研究課題
統合失調症死後脳を用いた網羅的解析はmRNA発現レベルでのでは多数行われているが、より病態を直接反映するタンパク質レベルでの報告は少ない。我々は質量分析に基づく新規の網羅的及び標的指向的タンパク質解析法を用いて統合失調症と健常対照との間での死後脳内のタンパク質発現比較を行った。年齢、性別、死後時間をマッチさせた統合失調症死後脳10 例、健常対照死後脳10 例の凍結脳サンプルの前頭前野皮質について、2DICAL法による網羅的解析と標的指向的な絶対定量解析を並行して行った。後者では統合失調症病態に関連すると措定される分子をピックアップし、LC-MS/MSにて検出可能と確認できるペプチドプローブを合成した108分子についてタンパク質発現量解析を行った。2DICAL法による前頭前皮質の網羅的解析では8768分子のタンパク質が同定され、そのうち300分子で統合失調症と対照で有意な差が認められた。標的指向的な絶対定量解析による解析からも数種の候補タンパク質を得た。これらの分子には先行の研究において報告のあった因子及び本研究で新規に明らかになった因子が存在した。一例としてDynamin-1 は既報において統合失調症死後脳で増加することが報告されているが、本研究においては統合失調症で平均0.24倍(p値=0.0208)の有意な低下が見られた。これらのタンパク質については凍結脳を蛍光免疫組織化学染色し、細胞組織内局在及び発現強度を比較したところ、タンパク質量の比を反映しているものから、タンパク質量の比から想定される以上に染色像に差異があるものがあった。今回用いた、LC-MS/MS法を用いた二種のアプローチによる凍結死後脳サンプルの解析は、既知の分子に加え、未知の分子をタンパク質レベルで比較定量し、効率的に有用な分子をスクリーニングすることが可能であることから、統合失調症の病因病態の解明の上で極めて有用である。
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Prog Neuropsychopharmacol Biol Psychiatry
巻: 5846(14)(Epub ahead of print) ページ: 00075-X
10.1016/j.pnpbp.2014.03.014