研究課題
前頭側頭葉変性症(frontotemporal lobar degeneration:FTLD)は、多様な臨床症状を呈し、いくつかの異なる病理学的背景を有する疾患群である。本年度はFTLDに関連した臨床特徴の研究として、FTLD様の症状を呈した橋本脳症の症例群の臨床的特徴について共同演者として論文報告を行った。同様にFTLD様の症状を呈した間歇型一酸化炭素中毒の症例について共同演者として論文報告を行った。これらの報告を通してFTLD類似の臨床症状を呈する症例の背景が多様であることについて理解を深めることができた。さらにFTLD剖検脳の症例の臨床記録から、FTLDに特徴的な臨床症状について、出現時期、出現期間、重症度などの調査を行っている。また、FTLDに関連した臨床病理学特徴の研究として、29例のFTLD-TDPの臨床症状をまとめ、その中の進行性非流暢性失語を呈した1症例について共同演者として論文報告を行った。また、FTLD様の症状を呈したハンチントン病に神経線維腫症1型を合併した1剖検例について共同演者として論文を投稿中である。これらの報告を通してFTLDの臨床症状や病理所見が多様であることについて理解を深めることができた。さらに、最近、FTLD脳に蓄積する異常構造物の主構成成分がTAD-DNA-binding protein 43 (TDP-43)もしくはfused in sarcoma (FUS) proteinであることが明らかにされ、病態の解明が急務となっている。このうちFUS proteinに関連する研究として正常脳のニューロピルにFUS陽性微細顆粒として認められることを共同演者として論文報告を行った。これはFUS proteinの病的蓄積の手掛かりとなる研究である。
2: おおむね順調に進展している
一部、当初の計画と異なる点もあるが、研究の目的に沿って研究対象を拡大した結果である。さらに、これらの研究について学会発表や論文報告を行うことができている。
前述の学会発表を行った研究や症例報告について国内外の論文に投稿する予定である。また、今後はさらにFTLD剖検脳についてヘマトキシリン・エオジン染色等のルーチン染色に加え、リン酸化タウ、ユビキチン、TDP-43、FUS proteinなどに対する抗体を用いた免疫組織化学を行い病理学的検討を進めていく予定である。
次年度繰越金が7,356円生じたが、ほぼ予定通りで誤差範囲の金額である。学会報告や論文作成に必要な費用、試薬や免疫組織化学に用いる抗体などの費用に用いる予定である。
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