統合失調症患者のアセチルコリン神経系、嗅覚機能の障害につき検討を加え、疾患群での機能障害を示した。アセチルコリン神経系については、経頭蓋磁気刺激を用いた神経生理指標であるSAI(short-latency afferent inhibition)を簡易に測定する装置(簡易型短潜時求心性抑制測定解析システム:MaP1645SYS)を製作し、データの再現性や測定条件の簡略化などの検討を行った。疾患群ではSAIが低下しており、統合失調症患者でのアセチルコリン神経障害の仮説を支持するものと考えられた。MaP1645SYSにより、これまで試験的な段階にとどまっていた統合失調症の機能障害の評価、認知症の鑑別診断などへの臨床応用が容易となった。嗅覚障害の検討では、カード型嗅覚検査(Open Essence)を用いて統合失調症患者の嗅覚同定能力を検討した。患者群では健常被験者に比べて、嗅覚同定能力の低下を認めた。また、患者群、健常群とも嗅覚同定能力と嗅覚障害の自覚度の相関を認めており、その他の認知機能との関連が今後の検討課題となった。未治療期間、重症度、罹病期間の検討については、現時点では、アセチルコリン神経系、嗅覚障害との関連は結論が得られておらず、引き続き検討を行う予定である。関連研究として、経頭蓋磁気刺激と近赤外スペクトロスコピー(NIRS)を用いて前頭-側頭葉間の機能的な連絡を非侵襲的に検出する手法を示した。統合失調症での前頭-側頭葉間の神経回路の障害を検出することで、SAI、嗅覚障害との関連性を探るなどの応用が考えられる。この他、未治療期間のモデルとして頭部外傷後精神病性障害の精神症状と認知機能の経時的な変化につき報告を行った。
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