研究課題
本研究においては周術期の血清抗コリン活性(Serum anticholinergic activity: SAA)と術後せん妄の発生の関係について調べた。調査対象は食道癌手術および胃癌手術を受ける患者で、麻酔方法は通常の硬膜外併用全身麻酔を選択した。麻酔導入後の手術開始直前と手術終了直後に採血をし、遠心分離を行った後、-80℃で保存した。その後SAAを測定し、その値に応じて(+)、(±)、(-)に分類した。また、術後せん妄の発生はConfusion Assessment Method (CAM)を用いた。観察した34名のうち14名に術後せん妄を認めた。せん妄群と非せん妄群の間で、術前のSAAの値に有意差はなかったが、術前にSAA(+)で術後もSAA(+)またはSAA(±)であった数はせん妄群で有意に高かった。これまで、SAAは抗コリン活性を持つ薬物の服用やその代謝物に起因すると考えられていたが、近年、発熱や感染、ストレスなどによる内因性の抗コリン活性の存在も指摘されている。今回は術前の血液検体においてせん妄群、非せん妄群ともにSAAが上昇していた。術後に関しては、せん妄群ではSAAが検出可能のままであり、非せん妄群では検出不能となっている傾向にあった。つまり、アセチルコリン系が正常に機能していれば、術前に上昇した抗コリン活性を代償することができ、術後SAA(-)になると考えられるが、術後せん妄を起こした患者については術後SAA(+)または(±)のままであり、抗コリン活性を完全に代償することができなかったと推察される。この研究を通じて、周術期の抗コリン活性の推移と術後せん妄の関連が示唆される。
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順天堂醫事雑誌
巻: 60 ページ: 1-4