研究課題/領域番号 |
23791362
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
豊島 学 独立行政法人理化学研究所, 分子精神科学研究チーム, 研究員 (90582750)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | NG2細胞 / 統合失調症 |
研究概要 |
本研究は、オリゴデンドロサイトの前駆細胞であるNG2細胞と統合失調症の病態との関連について解析を進めている。具体的には、統合失調症やその治療においてNG2細胞に何が起こっているのか、NG2細胞に障害を与えた場合、何が起こるのかという2 つの観点から解析を行い、統合失調症の病因や病態、治療薬の薬効とNG2(+)細胞の関連を探ることを目的としている。平成23年度の研究では、精神疾患治療薬投与によるNG2細胞の反応性を解析した。具体的には、NG2DsRedマウスに対して精神疾患治療薬[抗うつ薬 (Imipramine), 気分調整剤 (Lithium ), 抗不安薬 (Diazepam), 抗精神病薬 (Haloperidol)]を3週間投与した後、大脳皮質前頭前野を切り出し、FACS(フローサイトメーター)を用いてNG2細胞を分離し、細胞数の変化、NG2細胞特異的な遺伝子発現変化を調べた。その結果、Lithium投与群においてのみNG2細胞数の減少が認められた。Lithium投与によってNG2細胞の増殖能および分化能に変化がもたらされる可能性が示唆されたことから、そのメカニズムを検討するために"Lithiumに影響を受ける分子"で、尚かつ"神経系の幹細胞の分化や増殖に影響を与える分子"の遺伝子解析を行った。その結果、Lithium投与を行ったNG2細胞群では、Rbpj遺伝子の発現増加が認められた。Rbpjは、細胞の運命決定に重要な役割を果たすNotchシグナルの主要な伝達因子として知られている。これらの結果と考え合わせると、 NG2細胞に対するLithiumの影響は、Notch/Rbpjシグナルの経路を介していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、統合失調症やその治療においてNG2細胞に何が起こっているのか、NG2細胞に障害を与えた場合、何が起こるのかという2 つの観点から解析を進めている。1つ目の観点に関しては、精神疾患治療薬投与によるNG2細胞の反応性を解析した結果、NG2細胞は、Lithium投与によりNotch/Rbpjシグナルの経路を介して細胞数が減少することが示唆され、この観点に関する研究は順調に進んでいると考える。2つ目の観点に関しては、時期特異的NG2細胞障害マウス(NG2 プロモーター制御下でCreERを発現するトランスジーンとCAG プロモーターの下流にfloxed Neo-DTAカセットを配置したトランスジーンを持つダブルTg マウス)を作製し解析を進めていたが、障害の影響をNG2細胞に限局できないことが分かり、現在新たな特異的NG2細胞障害マウスの作製を進めている。そのため、この観点に関する研究はまだあまり進んでいない。以上のことから、研究全体の達成度としては、やや遅れていると考える。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度の研究では、統合失調症薬理モデルマウスを用いて、統合失調症においてNG2細胞にどのような変化が起こるかに注目して解析を行う。(1)統合失調症薬理モデルマウスの作製:統合失調症薬理モデルマウスとしては、NG2DsRedBAC Tg マウスに、Poly(I:C)を生後2日~6日の間に連続投与したものを用いる。成体まで飼育した後、行動実験を行い統合失調症関連行動(prepulse inhibitionやsocial interaction test)に顕著な異常がある個体のみを以降の解析に用いる。(2)NG2細胞の組織学的解析:作製した統合失調症薬理モデルマウスについてNG2細胞の細胞数の変化、形態の変化を組織学的に調べる。更に、NG2細胞が分化するオリゴデンドロサイトのマーカー(MBP, MAG など)を用いた免疫組織化学的解析を行い、NG2細胞の分化能への影響も解析する(3)統合失調症薬理モデルマウスのNG2細胞における遺伝子発現解析:統合失調症薬理モデルマウスのNG2細胞において、発現変化する遺伝子を網羅的に解析するため、統合失調症薬理モデルマウスの前頭葉(統合失調症に関連すると考えられている部位)から、FACS(フローサイトメーター)を用いてNG2細胞を分離した後、total RNA を抽出し、得られたtotal RNA を用いてマイクロアレイ法による遺伝子発現解析を行う。マイクロアレイ解析から得られた遺伝子発現情報は、Ingenuity PathwaysAnalysis を用いてネットワーク解析し、既知のパスウェイ、生物学的機能との関連を検討する。また、発現変化の見られた遺伝子群の中で機能的に重要なものに関しては、定量的RT-PCR や免疫染色などの組織学的解析を行い確認する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度の研究費は、主に統合失調症薬理モデルマウスの作製に必要な試薬、組織学的解析に用いる抗体、遺伝子発現解析に必要な試薬等の消耗品の購入にあてられる。なお、本研究を滞りなく行うに足る消耗品以外の設備・装置等は確保しており、平成24年度の研究費では、高価な設備備品等は購入しない。研究遂行上必要な、他機関の研究者との打ち合わせ、情報収集、成果発表のために、国内学会(日本神経科学学会、日本生物学的精神医学会等)および国際会議(北米神経科学学会等)への出席が必要なため、旅費として使用する。
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