ＡＢＣトランスポーターファミリーが精神疾患に及ぼす役割について

2011 年度 実施状況報告書

• 研究課題/領域番号: 23791371
• 研究機関: 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター
• 研究代表者: 藤井 崇 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター, 神経研究所疾病研究第三部, 科研費研究員 (10450610)
• 研究期間 (年度): 2011-04-28 – 2014-03-31
• キーワード: 脳神経疾患 / 神経科学

研究概要

統合失調症、および大うつ病性障害に対する遺伝子関連解析を指標とした解析でABCトランスポーター遺伝子ファミリーに焦点を絞って解析を行なっている。　初年度の主な成果としては、ABCB1について、大うつ病性障害とその機能多型における発症脆弱性を報告している。うつ病はストレスを誘因として発症し、遺伝的要因も関与することが知られている。ABCB1は、血液脳関門に発現し数々の薬剤や生体毒素に対する排出ポンプとして機能し、脳を保護している。そこで、ABCB1がストレスホルモンであるグルココルチコイドを基質の一つとすることに着目し、その機能低下型遺伝子がうつ病リスクと関連するかについて検討した。日本人の患者631人、健常者1100人を対象として、ABCB1遺伝子の機能多型とされる5つの遺伝子多型、A-41G (rs2188524)、T-129C (rs3213619)、C1236T(rs1128503)、G2677A/T (rs2032582)、C3435T (rs1045642) を調べた。その結果、T3435機能低下型アリルは、健常者群と比較して患者群に有意に多く見られた。さらにこのアリルをホモ接合で持つ者の頻度は、患者群において有意に高い結果を得た。以上の結果は、機能低下型アリルT3435が、うつ病発症のリスク要因として働くことが示唆され、遺伝的に規定されたP糖タンパク質の機能低下がうつ病のリスクとなるのではないかという仮説を支持している。これらの結果をまとめて、筆頭著者として論文発表している。この成果は、日刊工業新聞で記事として取り上げられている。　また、解析候補遺伝子の一つABCA1に関して、アミノ酸置換型多型rs2230808 (R1587K)について、統合失調症の発症脆弱性と関連を発見し、論文として発表している。

現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

着目したABCトランスポーターファミリーから、２種類のトランスポーター遺伝子に関して、疾患との関連性を見出し、論文として報告できており、非常に研究を進展させることができている。

今後の研究の推進方策

前年度から引き続き候補遺伝子の解析を継続する。候補遺伝子の選定の結果にもよるところがあるが、タイピングで得られた結果を、臨床治験などとも照らし合わせた解析を行い、より疾患との関連性を深めたいと予定している。

次年度の研究費の使用計画

実験の試薬類と実験器具類を中心に研究費を使用する。また研究成果報告のために費用が必要となり、そちらへも使用していく計画である。

研究成果

• [雑誌論文] Association between the functional polymorphism (C3435T) of the gene encoding P-glycoprotein (ABCB1) and major depressive disorder in the Japanese population. (2012)
  • 著者名/発表者名: Fujii T, Ota M, Hori H, Hattori K, Sasayama D, Teraishi T, Hashikura M, Tatsumi M, Okamoto N, Higuchi T, Kunugi H
  • 雑誌名: Journal of Psychiatric Research 巻: 46 ページ: 555-559
  • DOI: 10.1016/j.jpsychires.2012.01.012
  • 査読あり
• [雑誌論文] Elevated cortisol level and cortisol/DHEAS ratio in schizophrenia as revealed by low-dose dexamethasone suppression test. (2012)
  • 著者名/発表者名: Hori H, Teraishi T, Sasayama D, Fujii T, Hattori K, Ishikawa M, Kunugi H
  • 雑誌名: The Open Neuropsychopharmacology Journal 巻: 5 ページ: 18-24
  • DOI: 10.2174/1876523801205010018
  • 査読あり
• [雑誌論文] A polymorphism of the ABCA1 gene confers susceptibility to schizophrenia and related gray matter reduction. (2011)
  • 著者名/発表者名: Ohta M*, Fujii T*(＊Contributed equally to this work.), Nemoto K, Tatsumi M, Moriguchi Y, Hashimoto R, Noriko S, Kunugia H.
  • 雑誌名: Progress in Neuro-Psychopharmacology and Biological Psychiatry 巻: 35 ページ: 1877-1883
  • DOI: 10.1016/j.pnpbp.2011.07.012
  • 査読あり
• [雑誌論文] Support for association between the Ser205Leu polymorphism of p75NTR and major depressive disorder. (2011)
  • 著者名/発表者名: Fujii T, Yamamoto N, Hori H, Sasayama D, Hattori K, Teraishi T, Hashikura M, Tatsumi M, Higuchi T, Kunugi H.
  • 雑誌名: Journal of Human Genetics 巻: 56 ページ: 806-809
  • DOI: 10.1038/jhg.2011.107
  • 査読あり
• [雑誌論文] Modulation of cortisol responses to the DEX/CRH test by polymorphisms in the interleukin-1beta gene in healthy adults. (2011)
  • 著者名/発表者名: Sasayama D, Hori H, Iijima Y, Teraishi T, Hattori K, Ota M, Fujii T, Higuchi T, Amano N, Kunugi H
  • 雑誌名: Behavioral and Brain Functions 巻: 5 ページ: 7:23
  • DOI: 10.1186/1744-9081-7-23
  • 査読あり
• [学会発表] 大うつ病性障害におけるp75NTR遺伝子のミスセンス多型Ser205Leuの解析. (2011)
  • 著者名/発表者名: Fujii T, Yamamoto N, Hori H, Sasayama D, Hattori K, Teraishi T, Hashikura M, Tatsumi M, Higuchi T, Kunugi H.
  • 学会等名: 第 34 回日本神経科学会
  • 発表場所: パシフィコ横浜
  • 年月日: 2011年9月16日
• [学会発表] The functional polymorphisms of P-glycoprotein (ABCB1) and susceptibility to develop major depressive disorder. (2011)
  • 著者名/発表者名: Fujii T, Ota M, Hori H, Hattori K, Sasayama D, Teraishi T, Hashikura M, Tatsumi M, Okamoto N, Higuchi T, Kunugi H
  • 学会等名: 第34回日本分子生物学会
  • 発表場所: パシフィコ横浜
  • 年月日: 2011年12月14日
• [備考] ABCB1に関する下記の論文が日刊工業新聞（2012年2月16日）にて記事として掲載。Fujii T, et al (2012) Journal of Psychiatric Research 46:555-559