研究課題
前年度から引き続き、統合失調症、および大うつ病性障害に対する遺伝子関連解析を指標とした解析でABCトランスポーター遺伝子ファミリーに焦点を絞って解析を継続して行なっている。大うつ病性障害はストレスを誘因因子として発症し、遺伝的要因も関与することが知られている。ABCB1は、血液脳関門に発現し、数々の薬剤や生体毒素に対する排出ポンプとして機能し、脳を保護している。そこで、ABCB1がストレスホルモンであるグルココルチコイドを基質の一つとすることに着目し、その機能低下型遺伝子がうつ病リスクと関連するかについて検討した。今回の研究では、大うつ病性障害とABCB1の機能多型における発症脆弱性との関係を調べている。日本人の患者631人、健常者1100人を対象とした。ABCB1遺伝子の機能多型と考えられるSNPを選出し、結果として5つの遺伝子多型、A-41G (rs2188524)、T-129C (rs3213619)、C1236T(rs1128503)、G2677A/T (rs2032582)、C3435T (rs1045642) をについて研究を進めること決めた。その結果、T3435機能低下型アリルは、健常者群と比較して患者群に有意に多く見られ、さらにこのアリルをホモ接合で持つ者の頻度は、患者群において有意に高い結果を得た。以上の結果は、機能低下型アリルT3435が、うつ病発症のリスク要因として働くことが示唆しており、遺伝的に規定されたP糖タンパク質の機能低下がうつ病のリスクとなるのではないかという仮説を支持している。本年度は筆頭著者としてこれらの成果を発表した論文が発刊され、ならびに学会発表として社会への発信を行なっている。さらに本年度はABCB1の機能多型と統合失調症との関係を解析し、発症脆弱性、及び治療効果との関係について新たな知見が得られつつある。
1: 当初の計画以上に進展している
これまでの研究で、既に英文査読付き論文として6報発表できており、非常に研究を進展させることができている。
引き続き候補遺伝子の探索と検討は継続し、結果次第ではあるが、タイピングで得られた結果を、臨床治験などとも照らし合わせて解析を行い、より疾患との関連性を深めていきたい。さらに、これまでの研究で、ABCB1が特に重要であることが解明できてきたので、今後はこのトランスポーターと共通する生理機能の調節に関わる遺伝子にも視野を広げ、研究の可能性を探りたいと考えている。
実験の試薬類と実験器具類を中心に研究費を使用する。また研究成果報告のための費用が必要であると考えている。
すべて 2012
すべて 雑誌論文 (2件) 学会発表 (8件)
Sci Rep
巻: 2 ページ: 634
10.1038/srep00634
J Psychiatr Res
巻: 46(4) ページ: 555-9
10.1016/j.jpsychires.2012.01.012