研究課題/領域番号 |
23791375
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
安井 博宣 北海道大学, (連合)獣医学研究科, 助教 (10570228)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 間欠的低酸素 / 固形腫瘍 / 放射線 / 活性酸素 / レドックス |
研究概要 |
これまで一般的に治療抵抗性に関わっているとされる腫瘍内低酸素は、慢性的な低酸素であったが、近年、未成熟な血管が原因で起こる血流の鬱滞や閉塞による短時間で変動する間欠的な低酸素領域が存在することが明らかとなってきた。本課題の目的は、間欠的低酸素が腫瘍細胞の放射線抵抗性に及ぼす影響とその機構についてin vitroおよびin vivoの両面から明らかにすることである。 23年度では、低酸素の長さ、頻度ならびに回数を精査することで、最も細胞の放射線抵抗性を増強する条件を検討した。その結果、1時間の低酸素と30分の再酸素化を6回繰り返すことで最も放射線照射後の生存率は向上し、良い再現性も得られた。また間欠的低酸素に特徴的な現象として、再酸素化に伴う活性酸素種(ROS)生成が考えられるため、各サイクルで回収した細胞におけるROS産生量をその特異的プローブである2,7-dichlorodihydro flurescein diacetateにより定量した。その結果、再酸素化の曝露回数が増える毎に、細胞内ROS量の増加が観察された。このROS産生の上昇によって抗酸化関連因子の活性化が起こっている可能性が考えられたため、細胞内のスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)の活性を検討した。間欠的低酸素に曝された細胞でSODの活性が上昇している傾向が明らかとなった。これまでの実験により、間欠的低酸素による放射線感受性制御機構を明らかにする上で重要なin vitroでの実験条件が整備され、ROSの産生とそれに伴う細胞内レドックス状態の変化が起こっていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題の目的は、間欠的低酸素が腫瘍細胞の放射線抵抗性に及ぼす影響とその機構についてin vitroおよびin vivoの両面から明らかにすることである。この目的の達成のため、二ヶ年を通して、(1) 様々な程度・頻度の間欠的低酸素による獲得される放射線抵抗性の比較、(2) in vitro実験系における放射線抵抗性関連遺伝子の発現解析と活性酸素種(ROS)による制御機構の検討、(3) in vivo実験系における放射線抵抗性関連遺伝子の発現解析を行う。 23年度では、低酸素の長さ、頻度ならびに回数を精査することで、最も細胞の放射線抵抗性を増強する条件を検討した。その結果、1時間の低酸素と30分の再酸素化を6回繰り返すことで最も放射線照射後の生存率は向上し、良い再現性も得られた。従って、(1)に掲げた目標が達成された。 次に、(2)の目的に関して、各再酸素化サイクルで回収した細胞におけるROS産生量をその特異的プローブである2,7-dichlorodihydro flurescein diacetateにより定量した。その結果、再酸素化の曝露回数が増える毎に、細胞内ROS量の増加が観察された。加えて、このROS産生の上昇によって抗酸化関連因子の活性化が起こっている可能性が考えられたため、細胞内のスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)の活性を検討した。間欠的低酸素に曝された細胞でSODの活性が上昇している傾向が明らかとなった。従って、(2)に掲げた目的のうち、ROSによる制御機構の関連が示唆され、一部その目標を達成できたと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
24年度の実験については、本課題の目的に沿って、まずin vitro実験系における放射線抵抗性獲得に関する制御機構に対するレドックス状態の寄与についてより詳細に明らかにし、また関連遺伝子の発現解析を行う。さらに、in vivo実験系における放射線抵抗性関連遺伝子の発現解析と各種治療後の応答について検討する。 23年度の実験結果から、間欠的低酸素の暴露により、活性酸素種(ROS)の上昇が観察された。この現象が、細胞の放射線感受性に関与しているかを明らかにするため、N-acethyl cysteineなどの各種抗酸化剤で処理した際の影響について明らかにする。また、ROSの産生により、細胞内グルタチオンレベルが変化している可能性が示唆されるため、処理後の細胞について解析を行う。またPCRアレイを用いて、細胞内レドックス機構に関連するたんぱく質の遺伝子発現を網羅的に明らかにする。大気条件および慢性低酸素条件に比較して、有意に変化する遺伝子を明らかにできれば、そのたんぱく質発現の検討および特異的阻害剤/siRNAによる阻害実験を行い、その標的たんぱく質の関与を明らかにする。 またこの応答が、実際の腫瘍内で起こっているかを明らかにするために、ラットグリオーマおよびマウス扁平上皮がんの移植腫瘍を作成し、間欠的低酸素の組織上での可視化と標的たんぱく質の発現分布の重ね合わせを行う。具体的には、低酸素プローブであるPimonidazoleとEF5を時間差で投与することで間欠的低酸素領域を同定した上で、連続切片上で標的たんぱく質の発現を免疫染色により確認する。その相関関係を明らかにすることで、標的たんぱく質の阻害治療が放射線や制癌剤の治療効果を向上できうるかを検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初23年度に実施予定であったPCRアレイを用いた遺伝子発現評価に関して、その解析に必要となるリアルタイムPCR装置の導入が遅れたために遂行できなかった。そのため、予算計画に計上していたPCRアレイキットの購入を先送りし、相当する額の研究費を24年度の研究に使用する。 この次年度使用研究費の使途としては、未検討であるin vitroの実験におけるPCRアレイキットの購入と、得られた結果を裏付けするためのたんぱく質発現評価のための抗体の購入費として使用する。
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