研究課題/領域番号 |
23791382
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
門前 暁 弘前大学, 保健学研究科, 助教 (20514136)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 造血幹細胞 / 巨核球・血小板造血 / 電離放射線 / 細胞増殖 / 細胞表面抗原 / サイトカイン |
研究概要 |
本研究課題では、放射線曝露がヒト造血幹細胞の生存にどのような影響を及ぼすか、また造血因子となるサイトカインが生存率上昇にどのように働いているのかを解明することを目的とした。 平成23年度は、ヒト造血幹細胞の骨髄造血、特に巨核球・血小板造血の分化増殖に対する電離放射線の影響について解析を行った(Radiat Res. 2011;176:716-724)。X線2Gyを曝露した造血幹細胞をinterleukin-3及びthrombopoietin存在下で無血清培地下で培養すると、血小板産生期である14日目において、造血幹細胞数は非曝露に比べ2.4%と有意に減少した。また巨核球数は、巨核球産生期である培養7日目から14日にかけて、非曝露に比べ有意に減少していたものの、巨核球特異的細胞表面抗原であるCD41陽性細胞率に、放射線の影響はみられなかった。一方、接着因子であるTie-2は、放射線曝露条件下で培養7日目のCD41陽性細胞において有意に発現上昇した。産生血小板において、凝集因子刺激は放射線曝露に関わらず応答したものの、放射線曝露はより高い凝集活性を誘導した。これら細胞増殖及び抗原発現の変化は、遺伝子レベルの変化が影響している可能性があると推測し、早期造血関連、サイトカインレセプタ関連、巨核球造血関連及び酸化ストレス関連のmRNA発現をRT-PCRにて解析した。その結果、FLI1, HOXB4, Tie-2, KIT, IL3RA, HO1, NQO1遺伝子において放射線曝露は有意な発現上昇を誘導した。一方、MPL, CSF2RA及びGP1BAにおいて放射線曝露は発現を有意に抑制した。 以上のことから、造血幹細胞への放射線曝露は、これら造血の分化から成熟までの一連の流れにおいて様々な機能へ影響を与える事が明らかとなり、今後の研究課題の推進に重要な示唆を与えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成23年度は下記4項目の解析を実施計画とした。 (1)造血幹細胞における放射線感受性の解明 (2)放射線曝露造血幹細胞における損傷修復機構にサイトカインが及ぼす作用の解明 (3)放射線量によって造血幹細胞内レドックス制御はどのような変化があるのか? (4)デスシグナル応答の解析について重点をおき解析を進めた。(1)においては、巨核球・血小板造血においては米国放射線学会誌Radiation Researchに原著論文として報告した。他に骨髄系造血には白血球系及び赤血球系等があるが、これらについては現在細胞生存率及び表面抗原発現率について解析を進めている。(2)においては、2011年1月21日に国内で製造承認が取得された血小板造血作動薬Romiplostimも含め、これまでに所属グループで検討してきたinterleukin-3及びstem cell factorを使用して放射線による細胞損傷に対する修復機構の詳細について解析を進めている。また、放射線が細胞の標的としているのは細胞内DNAであり、DNA損傷状態を評価するコメットアッセイ、微小核検出解析及びγH2AX検出解析を進めている。(3)(4)においては、細胞内シグナル伝達のうち、ミトコンドリアに関連する経路は細胞内レドックスをコントロールしている上、デスシグナルもまたコントロールしている。平成23年度中に造血幹細胞における活性酸素蛍光マーカーを用いた動態解析を実施することができなかった。昨年度は東日本大震災の影響を受け、本研究課題の開始が遅れたこと、また造血幹細胞が新鮮ヒト臍帯血由来であることから不安定供給であることから、昨年度の実施計画内容を全て行うことができなかった。しかしながら、平成24年度の実施計画を修正することで遅れた実験内容については対応可能である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題は、平成23年度の計画内容を全て実施できなかったことから、今年度は下記のように実験内容を再調整することとする。 (1)放射線曝露造血幹細胞における細胞レドックス変化の解析、(2)放射線曝露量と細胞損傷程度の解析、(3)放射線曝露由来細胞損傷からの修復機構の解析及びサイトカイン投与による変動の解析、(4)放射線曝露造血幹細胞におけるデスシグナルの解析。 (1)においては、前年度に準備した活性酸素蛍光マーカーを用いて、造血幹細胞内におけるレドックス制御がどのように変化するのか動態解析を実施する。(2)においては、前年度に引き続いて、放射線曝露造血幹細胞における損傷がどの程度なのか、コメットアッセイ、微小核検出解析及びγH2AX検出解析法を用いて全骨髄系造血を対象に評価する。(3)においては、前年度に引き続いて、放射線曝露造血幹細胞におけるDNA損傷から修復する過程で、どのサイトカインがどの程度細胞生存または細胞死に影響を及ぼすのか、DNA組織用蛍光マーカーを用いて評価する。(4)においては、DNA 損傷から生じるアポトーシス誘発のデスシグナルには、ATM/ATR を介したp53 活性伝達経路が知られているが、この時カスパーゼファミリも活性化することが知られている。一方でデスシグナルを監視しているミトコンドリアも細胞の生死に重要な役割を果たしている。X 線曝露造血幹細胞がこれらデスシグナルに対してどのような応答を示すか、またサイトカインによってどのように変化するのかを蛍光プローブをタンパクに標識して共焦点レーザー顕微鏡で定性的解析を行なうとともに、ウェスタンブロッティングでも定量的解析を進める。仮にどのシグナル伝達経路が強く働いているのかが明らかにされた場合、阻害剤を用いて造血幹細胞の放射線感受性及び修復機構に変化があるかを明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
昨年度、本研究課題の達成度がやや遅れ、造血幹細胞における活性酸素蛍光マーカーを用いた動態解析を実施できなかったことから、直接経費の残額は699,473円となっている。今年度当初の直接経費の予定は1,300,000円であることから、これらを合算すると、今年度は1,999,473円を使用して本研究課題を推進する。新たな計画内容をもとに、下記の通り研究費使用計画を立てる。 試薬・キット類:800,000円、 培養関連器具:350,527円、 学会発表及び情報収集活動のための旅費:550,000円、 論文投稿料:200,000円 放射線曝露ヒト造血幹細胞の障害機構を解析するにあたり、造血幹細胞を多量に含む臍帯血の採血バック、細胞分離するための試薬、その後培養するための培地関連試薬、RNA実験及びタンパク発現解析のための試薬及びフローサイトメータを用いた細胞表面抗原解析用の抗体試薬が必要である。また、DNA損傷評価解析にはコメットアッセイ関連試薬、微小核検出解析試薬、DNA修復箇所検出試薬が必要である。更に標的遺伝子に絞り込んだ解析として今年度はsiRNA キットを購入予定である。これら一連の操作に必要なピペット・チップ類を含む培養関連器具を計上している。これら解析機器及び放射線発生装置は研究代表者が所属する大学院保健学研究科が所有するものを使用する。本研究を進める上で、関連学会における情報収集が必要であり、特に今年度は最終年度でもあることから、国際学会での発表を予定している。更には放射線影響の国際雑誌への論文投稿(2報)を予定している。
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