研究概要 |
全ての血球の源となる造血幹・前駆細胞(HSPCs)は、放射線のような酸化ストレスに感受性である。本研究では、放射線曝露がヒト造血幹細胞の生存にどのような影響を及ぼすか、また造血因子となるサイトカインが生存にどのように働いているのかを解明することを目的とした。 平成24年度は、白球系及び赤血球系の各分化系に対する電離放射線の影響について解析を行なった。骨髄系造血前駆細胞がおよそ37%の生存率となる放射線量(平均致死線量)は、X線及び炭素イオン線量においてそれぞれ1.07±0.05グレイ、0.65±0.04グレイと、X線よりも炭素イオン線に対して感受性であることが明らかとなった。DNA2本鎖切断の修復マーカーであるHiston H2AXのリン酸化は、2グレイX線曝露後2時間で最も多く観察されたが(68 foci/cell)、骨髄系分化増殖を促進するサイトカイン(G-CSF, SCF, GM-CSF, EPO, IL-3)含有無血清液体培養にて24時間後には35(foci/cell)と、サイトカイン非添加条件よりも低下した。また、培養14日目における成熟有核細胞数は、0.5グレイのX線曝露と非照射コントロールが同程度だった一方、0.5グレイの炭素イオン線は、1.5グレイのX線に相当する細胞増殖抑制がみられた(非照射コントロールに比較しておよそ50%)。培養14日目の有核細胞に含まれるHSPCsのうち、より未熟な分画であるCD34(+)CD38(-)CD45(+)細胞は、炭素イオン線曝露時に有意に多く含まれていた。更に、顆粒球分画及び赤血球の成熟分画では線質特異的な変動がみられた。 以上のことから、放射線曝露HSPCsは、骨髄系分化関連サイトカインの刺激によって直接または間接的にDNA損傷を修復すること、また生残細胞は放射線線質特異的に成熟が誘導されることが明らかとなった。
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