研究課題/領域番号 |
23791387
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
古本 祥三 東北大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (00375198)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | PET / 無細胞タンパク質合成 / タンパク質標識 / プローブ |
研究概要 |
本研究では、ポジトロン標識アミノ酸と無細胞タンパク質合成系を利用してポジトロン標識タンパク質を合成するという革新的なタンパク質標識法について、その実践的な方法論の構築とその応用性に関する潜在的可能性の検証を目的とする。本年度は、11C-メチオニンを用いてGFPの標識合成を試みた。無細胞タンパク質合成溶液にプラスミドDNA(200μg/mL)及び11C-Met溶液を添加して、37℃反応を行った。その結果、合成開始直後から目的とする11C-GFPが確認され、反応開始5分後には収率60%を超え、30分の反応で収率は72%に達した。ただし、生成物の放射性バンドは時間経過とともに変化するのが観察され、タンパク質のフォールディングに多少時間を要することが示唆された。炭素11の半減期を考慮した場合、合成開始5分で標識体の放射能は最大となり、タンパク質の合成は非常に速やかに進行し、短時間で収率良く合成できることが明らかになった。次いでより半減期の長いフッ素18標識アミノ酸による標識タンパク質合成を目指し、まずはコールド条件化でタンパク質合成に取り込まれる19F-アミノ酸の探索を行った。すると、4種類のフッ素含有アミノ酸が効率よく取り込まれることが明らかになり、18F標識タンパク質合成できる可能性が示唆された。それらのアミノ酸誘導体の中で、標識合成の観点から最も実用性の高いと考えられるアミノ酸FPについて、その標識前駆体合成を行った。そして実際に標識合成を行ったところ、フッ素化後の脱保護反応を1ポットの強酸性条件で行うと、標識中間体が分解し、目的とする18F-FP生えられなかった。そこで工程数は増えるが、アルカリ条件と酸性条件の2段階で脱保護反応を行ったところ、目的とする18F-FPが得られた。本成果を踏まえ、次年度以降18F-FPを用いた標識タンパク質合成実験を実施できる見通しが得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度の研究目標としては、(1)標識タンパク質合成反応の速度論的特性を検証し、放射能収量的に最適な反応時間条件を明らかにする、(2)無細胞タンパク質合成系で利用できるポジトロン標識アミノ酸の種類と合成効率の関係について検証し、特に標識効率に優れる18F-標識アミノ酸を明らかにするということを計画していた。 結果として、(1)に関しては、当初の計画通り、GFPをモデルタンパクとして11C-METを用いて11C-GFPの標識合成を実施し、速度論的観点で合成効率を検証した。そして、放射能量的に、合成時間は5分で収量が最大になることを確認し、最適な反応時間条件を明らかにした。 (2)に関しては、種々の18F-標識アミノ酸を標識合成し、18F-GFPを合成してその放射化学的収率の優れる18F標識アミノ酸を選出することを目指していたが、平成23年度の東日本大震災で、実験予定施設であった所属機関で18Fを用いた実験ができなくなったため、非標識アミノ酸を用いて実験を行った。非標識条件であったが、合成したタンパク質の推定収量から、タンパク質合成系に取り込まれやすいフッ素含有アミノ酸誘導体の選出に成功した。その中で、最も見込みの高いフッ素含有アミノ酸については、研究協力機関の協力を得て、実際に18F標識アミノ酸の合成検討を行い、18F-標識タンパク質合成の目処を立てることができた。 以上から、当初の計画通りに研究は順調に進展しているとした。
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今後の研究の推進方策 |
抗EGFR一本鎖抗体(scFv(EGFR))の標識合成とイメージング評価: 抗体は、高い分子認識能(特異的結合性)と強い結合力を有することから、そのポジトロン標識体はPETの有力な画像化プローブになり得る。そこで、本標識方法の実践的応用性の検証を目的として、分子標的抗癌剤の中で最も重要な標的分子の一つであるEGFR (上皮成長因子受容体)の一本鎖抗体を標識合成し、EGFR画像化プローブとしての有用性を検討する。具体的には、前項での検討によって選ばれた18F-標識アミノ酸と無細胞タンパク質合成系で 18F-標識scFv(EGFR)を合成し、そのエピトープを固定したアフィニティークロマトグラフィーで精製を行う。そして、EGFR陽性の癌細胞(A431、MCF7)を用いたin vitro結合試験を行うとともに、その細胞を皮下移植して作製した担癌マウスに投与して小動物PETにより腫瘍イメージング評価実験を実施する。さらに、腫瘍組織のex vivo ARGも実施し、同一切片の抗EGFR抗体による染色像との対比によって、腫瘍組織内におけるEGFRの発現と18F-標識scFv(EGFR)の分布状態の同一性を精密評価する。 各種タンパク質の標識合成: アミノ酸配列が公知となっている3種類のサイトカイン類の標識合成を行う。合成対象のタンパク質は、IL-8、sTNF-α、EGFとする。これらの鋳型DNAはカスタム合成で入手し、pET-3aベクターに導入して利用する。いずれの標識タンパク質についても、GEL-ARGで標識効率を検証し、反応終了後は、イオン交換クロマトグラフィーまたは抗体を固定したアフィニティークロマトグラフィーで精製する。各標識タンパク質のGEL-ARG解析および放射化学的収率の比較から、本標識法のタンパク質適用性について検証する。
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次年度の研究費の使用計画 |
計画した研究を遂行するに当たって必要となる経費としては、実験に必要となる試薬や消耗品器具などの購入費(物品費)として110万円、研究成果の発表に関する旅費(日本核医学会、札幌)や実験遂行上必要となる協力研究機関への出張旅費として20万円、その他として、研究成果の論文化に伴う英語論文原稿の校閲料として10万円、以上合計140万円を使用する計画である。 物品費の具体的内容としては、無細胞くん、鋳型DNA、生化学実験試薬・消耗品、カラムクロマト用樹脂、抗体(抗体カラム用)、標識アミノ酸合成試薬・溶媒、18O水(18F製造用)、放射性実験用消耗品、実験動物・飼料、の購入を計画している。
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