研究課題/領域番号 |
23791401
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
小川 数馬 金沢大学, 薬学系, 准教授 (30347471)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | DDS / ナノパーティクル |
研究概要 |
癌治療において、抗癌剤を効率良く癌組織に運ぶことにより、癌治療効果を高め、副作用を軽減するdrug delivery system (DDS)は非常に重要であり、これまでに高分子ミセル、リポソームなどを輸送担体とした抗癌剤内包DDS製剤が開発され、成果をあげている。本研究では骨の無機質の主な構成成分であるハイドロキシアパタイトをナノパーティクル輸送担体として用い、骨親和性放射性薬剤を結合させた新規癌診断・治療DDSの構築を研究の目的としている。そこで、今年度においては、ナノパーティクル製剤作成の前段階として、ハイドロキシアパタイトに高親和性の酸性アミノ酸ペプチドを用いた放射性Ga標識化合物の開発を行った。 L-アスパラギン酸もしくはD-アスパラギン酸を繰り返しFmoc固相合成法により結合させ、最後にFmoc脱保護後のN末端に錯体形成部位となるDOTAの誘導体を結合させ、保護基の脱保護と樹脂からの切り出しを同時に行い様々な鎖長のDOTA結合アスパラギン酸ペプチドを合成し、その後、Ga-68の代替核種としてGa-67を用いて放射標識を行った。 [Ga-67]-DOTA-(L-Asp)nと[Ga-67]-DOTA-(D-Asp)n (n=2,5,8,11,14)とのvitroにおけるハイドロキシアパタイトへの親和性を評価した結果、[Ga-67]-DOTA-(L-Asp)nと[Ga-67]-DOTA-(D-Asp)nはハイドロキシアパタイトの濃度に依存した結合親和性の増加を示した。また、ハイドロキシアパタイトへの結合親和性は鎖長の伸張に従って増加し、L-アスパラギン酸ペプチドとD-アスパラギン酸ペプチドでは顕著な差は観察されなかった。 本研究により、放射性ガリウム標識アスパラギン酸ペプチドがハイドロキシアパタイトナノパーティクルの標識部位として有用である可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成23年度、数多くの放射性ガリウム標識アスパラギン酸ペプチドの合成に成功し、鎖長が長い放射性ガリウム標識アスパラギン酸ペプチドはハイドロキシアパタイトへの高い親和性を示すことを明かにしたことにより、ハイドロキシアパタイトナノパーティクルを放射標識する際に、放射性ガリウム標識アスパラギン酸ペプチドが有効となり得るといった一定の成果は得られ、この研究成果は、平成24度に予定しているハイドロキシアパタイトナノパーティクルDDS製剤の開発に繋がるものと考えられる。 本研究は診断のみならず、包括的な癌診断・治療を目指す研究であり、ベータ線放出核種であるLu-177を用い、治療へ応用した標識化合物の合成と評価を行う研究を当初は計画していた。しかしながら、震災による原子炉停止の影響を受けて、核種の入手が困難となり実現できなかった。
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今後の研究の推進方策 |
反応温度、フィルター濾過などの検討により、種々のサイズのハイドロキシアパタイトを調整する。その際、粒子のサイズは、動的光散乱(DLS)により測定する。次いで、これまでに開発したハイドロキシアパタイト高親和性放射性Ga標識薬剤とハイドロキシアパタイトナノパーティクルを反応させることにより放射性Ga標識ハイドロキシアパタイトナノパーティクルを作製する。この化合物をColon 26担癌マウスに投与し、体内放射能分布を調べることにより種々のサイズのハイドロキシアパタイトナノパーティクルの体内動態、腫瘍集積性を検討し、ハイドロキシアパタイトナノパーティクルの粒子サイズ、作製法の最適化を行う。ここで、初期の検討としては半減期が長いSPECT用核種Ga-67をGa-68の代替核種として用い実験を行う。 ベータ線放出核種であるLu-177を用いた治療実験は、平成24年度も引き続き核種の入手が困難であることが予想されることから治療用放射性核種を用いた治療実験は一先ず中断し、放射性核種を用いた化合物としては診断に特化した化合物の作製を試み、治療に関しては、シスプラチンのような白金含有抗癌剤をハイドロキシアパタイトナノパーティクルに結合させることにより、癌治療実験を試みる。
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次年度の研究費の使用計画 |
担癌モデルマウスを作製するための実験動物、癌細胞、癌細胞培養のための培養細胞関係器具、血清が必要であるために購入する。 放射性核種としてGa-67が必要であるために購入する。 治療用DDS化合物として白金錯体をハイドロキシアパタイトナノパーティクルに結合させた化合物の作製を試みるため、白金、その他の化学薬品を購入する。 昨年度、震災による原子炉停止の影響を受けて、核種の入手が困難となり、治療へ応用した標識化合物の合成と評価を行う研究実現できなかったため繰越金が生じたが、その予算は、当初の予定通り、合成原料やモデル作製など治療実験のために使用する予定である。
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