研究課題/領域番号 |
23791403
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研究機関 | 独立行政法人放射線医学総合研究所 |
研究代表者 |
吉井 幸恵 独立行政法人放射線医学総合研究所, 分子イメージング研究センター, 研究員 (10397242)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 酢酸PET |
研究概要 |
本研究では、酢酸PET画像診断により腫瘍個別の脂肪酸合成活性を判別し、脂肪酸合成酵素を標的としたがん制御治療における効果を事前に予測する新たながん治療体系の確立を目指し、前臨床的知見を得ることを目的として下記の検討を行った。(1)酢酸PETを用いたFASN活性判別に基づくFASN標的腫瘍増殖制御治療における効果予測-in vitro実験 本年度は、ヒト前立腺がん細胞(LNCaP、PC3、22Rv1、DU145)を用い、酢酸取り込みとFASN発現量・FASN標的治療の治療効果との関係性につき、in vitroで調査した。FASN標的治療には、FASN阻害剤であるorlistatを用いた。その結果、細胞の酢酸取り込み量は、FASN発現量並びにOrlistat投与による細胞殺傷効果と、正の相関関係にあることが示された。(2)酢酸PETを用いたFASN活性判別に基づくFASN標的腫瘍増殖制御治療における効果予測-in vivo実験 ヒト前立腺がん細胞(LNCaP、PC3、DU145)を大腿部に移植した担がんマウス用い、酢酸取り込みとFASN発現量・FASN標的治療の治療効果との関係性につき、in vivoで調査した。酢酸取り込みに関しては、C-11酢酸PET を施行し、調査した。FASN標的治療では、orlistatを250 mg/kg/dayで2週間、担がんマウスに投与した。その結果、FASN発現の高い腫瘍は、[1-11C]酢酸PETで鮮明に描出でき、orlistatによる治療効果も高いことが明らかとなった。一方、FASN発現の低い腫瘍は、[1-11C]酢酸の取り込みも低く、orlistat治療は奏功しなかった。 以上のことから、酢酸PETを用いたFASN活性判別に基づくFASN標的腫瘍増殖制御治療における効果予測に関して、基本的なデータを押さえることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、酢酸PET画像診断により腫瘍個別の脂肪酸合成活性を判別し、脂肪酸合成酵素を標的としたがん治療における効果を事前に予測する新たながん治療体系の確立を目指し、前臨床的知見を得ることを目的として検討を行っている。以下に、現在までに行った検討につき、各項目ごとの達成状況を記す。(1)酢酸PETを用いたFASN活性判別に基づくFASN標的腫瘍増殖制御治療における効果予測-in vitro実験 本年度は、ヒト前立腺がん細胞(LNCaP、PC3、22Rv1、DU145)を用い、酢酸取り込みとFASN発現量・FASN標的治療の治療効果との関係性につき、in vitroで調査した。その結果、細胞の酢酸取り込み量は、FASN発現量並びにOrlistat投与による細胞殺傷効果と、正の相関関係にあることが示された。(2)酢酸PETを用いたFASN活性判別に基づくFASN標的腫瘍増殖制御治療における効果予測-in vivo実験 当初の計画では、ヒト前立腺がん細胞のRFP発現株を用いて、解析を行う予定であった。しかし、ヒト前立腺がん細胞RFP発現株のin vivoイメージングでは、縮小腫瘍・微少腫瘍につき、シグナルが減退するため、定量的な解析が困難であったため、ヒト前立腺がん細胞の元株であるヒト前立腺がん細胞(LNCaP、PC3、DU145)を大腿部に移植した担がんマウス用い、解析を行った。治療効果については、腫瘍径で評価した。その結果、FASN発現の高い腫瘍は、[1-11C]酢酸PETで鮮明に描出でき、orlistatによる治療効果も高いことが明らかとなった。一方、FASN発現の低い腫瘍は、[1-11C]酢酸の取り込みも低く、orlistat治療は奏功しないことが示された。
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今後の研究の推進方策 |
(1)前年度までに得られたデータの解析次年度は、(1)酢酸PETを用いたFASN活性判別に基づくFASN標的腫瘍増殖制御治療における効果予測-in vitro実験、(2)FASN分子標的薬剤によるがん転移制御治療と酢酸PETを用いた効果予測、の検討で得られたデータの解析を行う。また、必要に応じて補足データを取得する。(2)FASNの細胞遊走、浸潤、転移巣形成における役割の検討次年度は、腫瘍の進展・転移過程で重要であるとされる細胞遊走、浸潤、細胞増殖の各段階におけるFASNの関与の有無を検証することにより、FASN分子標的薬剤によるがん治療・転移制御治療における生物学的メカニズムの詳細を明らかにする。具体的には、前立腺がんFASN高発現細胞につき、FASN発現抑制細胞株をshRNAを導入することで作成し、これを用い、細胞遊走、浸潤、細胞増殖、転移巣形成におけるFASNの役割を明らかにする。一方、これまでに脂肪酸は抗アポトーシス効果を持つことが報告されている。そこで、本検討では、FASN発現のもたらすがん細胞の抗アポトーシス効果とがん転移巣形成の関係についても調査する。これにより、FASN分子標的治療のメカニズムについても明らかにし、酢酸PET画像診断-FASN分子標的治療の意義を検討する。本研究を通じ、がんの進展・転移病巣形成における脂肪酸合成の役割とその重要性が示され、がんの病態理解につながる新たな知見が得られる。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究を遂行するにあたり、FASN発現抑制細胞株の作成に必要な消耗品・試薬を揃える必要がある。また、RI実験に必要な試薬・実験器具・実験動物を適宜購入する必要がある。さらに各種アッセイを行うためのキットも、本研究を行う上で必要不可欠である。そのため、消耗品費を計上している。また、細胞実験・動物実験の補助として、研究協力者を雇用するため、人件費を計上している。これらは、本研究を効率よく進めるために必要となる。さらに、国際会議において、成果発表を予定しているため、国外旅費を申請している。このように、本年度は、得られた成果を発表し、迅速に社会還元することを目指す。なお、研究費使用に当たっては、法令および研究者使用ルールに従い、これを適正に使用する。
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