この研究では,IVIM-DWIモデルを用いて拡散のみならず,潅流も定量する新たなMR撮像方法の開発を行った.MRI拡散強調像において,プロトン分子のランダムな動きを意味するのがIntravoxel incoherent mortion (IVIM) である.実際には大きく分けで潅流と拡散の2つの要素からなる現象である.従来は拡散現象にのみ焦点があてられてきたのに対し,潅流情報をも積極的に定量するモデルがIVIM-DWIモデルである. モデルの近似法について,既報が複数あったためそれらの整合性,再現性の検討を行った.その結果,非線形フィットを行う方法と線形フィットのみを繰り返して行う方法とでは計算結果に大きな差が認められることが判明した.このことは将来,IVIMモデルを用いた定量診断を行う上で大きな問題となる可能性がある.少なくともどの近似法を用いて計算を行ったかを明確にしなければ測定値を相互に比較することはできないことが明らかとなった. 臨床例での初期検討として腎血流量(潅流)の評価と,肝腫瘤の血流(潅流)と拡散についての検討を主に行った.腎機能(eGFRで測定)により層別化した患者群間でIVIMパラメータに差があるかを検討し,eGFR が低下すると腎皮質の擬似拡散係数(潅流を反映)が有意に低下することを確認した.また肝の悪性病変と良性病変を比較したところ,両者の間には拡散係数だけでなく,擬似拡散係数にも差がみられた.良悪性を区別する診断能は拡散係数ですぐれており,質的診断の目的にはより純粋な分子拡散を定量する必要があることが示唆された. 結論;IVIM-DWIは組織潅流を非侵襲的に定量できる可能性のある手法である.臨床例にも容易に応用可能な優れた方法である.しかし未だ初期検討段階であり今後の臨床例での検討を続け診断能や基準を検討する必要がある.
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