研究課題
通常のX線は指向性が高くなく、細かいグリッド状のマイクロビームを形成することが困難であったが、放射光ではビーム幅数十μmビーム間隔数百μmというスリット状照射が可能であり、マイクロスリットX線照射では数百Gy以上という極めて高い線量を照射しても組織壊死は発生せず、従来のX線治療、粒子線治療では達成できない極めて優れた生物学的特性があることが報告されている。本研究ではSPring-8から供給される放射光を用いてグリッド幅25um~数mmの高精細格子状照射を行い、抗腫瘍効果・正常組織反応観察することにより最適な照射条件を探索するものである。マウス全脳照射においては、通常ビームによる照射での半致死線量(LD50)が80Gyであったのに対し、100μm間隔のスリット照射では約180Gy、200μm間隔では約500Gy、300μm間隔では約700Gyと、スリット幅を広げたマイクロスリット照射においてLD50が高線量となることが確認された。また、照射後の脳組織の病理組織学的検討では、通常の全脳照射では96Gy以上の照射で微細な出血や照射部位における広範な神経細胞の脱落が見られたのに対し、スリット照射では480Gyという高線量を照射しても、照射部位の細胞脱落が起こるのみであった。ヒストンH2AXによる免疫染色においても、照射されたスリットに一致してH2AXの集積がみられ、同部に照射によるDNA二重鎖切断が発生したものと考えられるが、非照射部にはDNA二重鎖切断の痕跡は見られなかった。照射後マウスの経過観察では、480Gyのスリット照射後も摂餌や排泄等に異常はなく長期生存が得られた。これらの結果から、放射光を用いた高精細格子状照射により高線量の全脳照射を行っても組織は耐容可能であることが示唆された。最適なスリット幅や照射線量に関しては、晩期有害事象も含めて更なる検討が必要である。
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