研究課題
本研究は、大型放射光施設SPring8で得られる高い指向性をもったX線微小ビームに対して、放射線治療の臨床応用に向けた照射条件を物理的測定および生物学的効果により検討することが目的である。研究計画項目は、(1)照射条件の物理的パラメータと照射線量および線量分布の関係の解明、(2)線質の検討、(3)シミュレーション計算による実測値の精度検証、(4)細胞・動物実験による生物学的効果の検討である。 本年度は、研究計画に従い、照射条件の物理的パラメータと照射線量および線量分布の関係を調べた。線量測定には、ガフクロミックフィルムとフラットベッドスキャナを使用した。最初に、照射線量とフィルム濃度の関係を表す特性曲線を取得し、放射光の特徴の1つである大線量に対するフィルムの測定感度を検討した。その結果、HD810フィルムでは1200Gyまで照射しても十分な特性曲線が得られ、大線量ビームの線量測定に使用可能であることが確認された。このような大線量に対するフィルムの反応の報告は少なく、本研究の成果の1つであると考えられる。さらにスキャン解像度と微小ビームサイズの関係性を調べ、微小なビームサイズに対してフィルムとスキャナによる測定方法が有用であることを示した。 次にこの方法を用いて微小ビームの物理的測定を行った。ビーム幅と線量の検討から、同一照射時間であってもビーム幅により照射線量が大きく異なり、ビーム幅25μmでは幅100μmの約30%であることがわかった。ファントムを用いた媒質中での線量分布の評価では、深さ5cmにおいてビームの減衰による線量低下はあるが、横方向の線量分布の広がりに大きな変化は認められず、媒質中においても放射光ビームの指向性の高さを示唆する結果を得た。これらは動物実験における生物学的効果と物理線量の関係性を明らかにする上で重要であると考えられる。
3: やや遅れている
本年度は、X線微小ビームの線量測定に対してその測定系を確立させ、研究計画に従った照射条件下でのデータを得た。しかし、測定系を確立するために予定していた以上にSPring8のビームタイムを消費してしまい、一部の照射条件下での測定とシミュレーションによる評価が未実施である。これらに関しては、次年度に実施予定である。
研究計画に則り、不均質媒質中での線量測定、シミュレーションによる評価、および細胞・動物実験による物理的パラメータと生物学的効果の関連性の検討を行う。また、前年度に実施できなかった照射条件に関しても評価を行う。基本的な測定系は同じであるため、これらは問題なく遂行できると考えられる。平成24年度前期のSPring8でのビームタイムは既に確保しており、予定通り研究を実施する。
研究計画に従い、使用する予定である。
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International Journal of Radiation Oncology, Biology, Physics
巻: 82 ページ: 1509-1514
10.1016/j.ijrobp.2011.04.052