研究課題/領域番号 |
23791438
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
下權谷 祐児 兵庫県立大学, 工学研究科, 助教 (30552575)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 脳動脈瘤 / 血管内治療 / ステント / ステントグラフト / 術前評価 / 血流 / 血行力学 / 計算流体力学 |
研究概要 |
現在,脳動脈瘤に対する血管内治療の主流はコイル塞栓術であるが,近年では,ステントグラフト(ステントの周りを薄い膜材で被覆した医療デバイス)を用いた脳動脈瘤治療,あるいはその膜材に多数の細孔を設けたデバイスによる治療が検討され始めている.さらには,ステント単体での治療(膜材で被覆していないベアステントによる治療)についても注目が集まりつつあり,これらステント系の医療デバイスを用いた脳動脈瘤血管内治療は,特に,コイル塞栓の困難な,頸部の広い瘤や巨大瘤に対する有用な治療法として期待されている.これらステント系の医療デバイスによる瘤治療(親血管への留置術)においては術前の力学的評価が重要であり,それを可能とするシミュレーション技術の開発が望まれる. 平成23年度はまず,ステント単体での脳動脈瘤治療を対象として,ステントの留置による血流阻害効果の評価を行った.特に,親血管に対する瘤の位置やステントの巻き数が瘤内へ流れ込む血流に及ぼす影響を明らかにすることを目的とし,U字血管の湾曲部に5通りの角度で瘤が生じた場合の血流阻害効果の違いを血流シミュレーションにより評価した.その結果,瘤の形成角度5通りとステントの巻き数2通りの,計10通りの組み合わせにおいて,ほとんどのケースでステント留置による血流阻害効果が確認されたが,一部の瘤位置では瘤への流入流量や流入最大速度がかえって増加する結果となった.このことから,親血管に対する瘤の位置によっては,ステントの留置が逆効果となり得ることが明らかとなった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の研究実施計画では,ステントグラフト(ステントの周りを薄い膜材で被覆した医療デバイス)を留置した状態での血流阻害効果の評価までを目標としていた.残念ながら現在までのところその段階まで至ってはいないが,そのベースとなる,ステントを単体で留置した場合の血流阻害効果の評価を行い,新たな知見が得られていることから,上記のような達成度評価とした.
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今後の研究の推進方策 |
シース内に収められていたステントグラフトがシースからリリースされながら自己拡張するとともに,ステントグラフトと血管壁が接触・変形し最終的にその平衡状態に達するまでの,一連の力学的過程を解析できるようにすることが必要となる.当初の研究実施計画ではこれを全てin-houseの解析コードで行うことを計画していたが,それが困難な部分があること,および,市販のソフトウェアを用いることで一連の力学的過程の解析が行える目処がついたことから,研究実施計画を一部変更し,市販のソフトウェアを用いて対応することとする. これにより,上述のような一連の力学的過程を解析できるようにし,ステントグラフト留置時の血管内の状況を再現する.それを踏まえ,脳動脈の流動条件に基づいた血流シミュレーションを適用することで,ステントグラフト留置時の血流阻害効果の評価を行うとともに,その結果をステント単体の評価結果と比較する.
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次年度の研究費の使用計画 |
脳動脈瘤の実症例形状において上述のような一連の力学的過程の解析を行うために,比較的複雑な形状に対しても広く適用可能な汎用性の高い構造解析ソフトウェアの購入を計画している.旅費に関しては,国内・国際学会での研究成果発表と情報収集,ならびに研究協力者との研究打合せに使用する計画である.また,研究成果を学術論文として公表するための諸経費(英文校閲料・論文投稿料等)と学会参加費にも使用予定である.
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