研究課題
●研究目的細胞治療の実現には、再生現象に関わる幹細胞の増殖能・分化能の生物医学的研究が重要であり、特に幹細胞を体外で増幅させることや幹細胞の機能不全による疾患の解明にするのに必須である。本研究では、骨髄に存在する間葉系幹細胞の分裂様式とDNA修復機能を解析することで幹細胞老化機構の解明を行う。●研究成果本研究では、申請者らが開発した単一間葉系幹細胞を用いて、自己複製に伴う老化現象の解明を行った。フローサイトメーターを用いてヒト骨髄細胞より特異抗原(LNGFR・Thy-1)を指標に、間葉系幹細胞を直接分離し、単一細胞培養にてヒト間葉系幹細胞のクローンを得た。増殖の速いMSCクローンをRPC (Rapid Proliferating Clone)と名づけ、増殖の速度にしたがってMPC, SPCと区分けした。 これらグループの分化能力を比較したところ、骨分化能力において変化はなかったが、脂肪分化能力がRPCで高く、SPCでは低いことが確認された。RPC、MPC、SPC細胞の違いを、分化能力だけでなく細胞周期や老化の観点でも調べた。SA-b-GAL染色を行ったところ、Slow細胞では70%以上陽性だったのに対して、Rapid細胞では、数%のみ陽性であることがわかった。細胞周期に関係しているp16,p19,p21の発現を定量PCRで調べてみたところ、p19やp21の違いはほとんど無かったが、p16に大きな違いがあり、Slowでp16の発現が上昇していることが確認され、p16を経た老化が進んだ状態にあることが示唆された。RPC、MPC、SPC細胞の1ヶ月培養後、細胞表面抗原を調べてみたところ、CD106,CD49dの両者の発現が高いことがわかった。CD49dはCD106のレセプターでもあり、幹細胞能力を維持する上で、CD106-49 Signalが関係していることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
間葉系幹細胞の中にもさまざまな老化状態の幹細胞が存在しており、老化している細胞は幹細胞の特性(増殖能力や分化能力)を維持できなくなっていることが証明された。現在これらの内容を論文投稿している段階である。
今後の研究計画は大きく2点に分けられる。1)間葉系幹細胞の細胞周期と分裂様式についての観察2)放射線照射による自己複製能・多分化能への影響実験1においては、使用するウイルスは作成済であり、本年度はタイムラプス撮影方法(培養条件や培養条件)の検討を行う。実験2においては、細胞老化を評価するためのp16や酸化ストレスの定量的な評価方法を確立する予定である。
研究が計画よりも早期に結果が出たため、繰越額が生じた。H23年度繰越額とH24年度研究費を用いて、ウイルス作成に必要な試薬や、培養液(DMEMやメチルセルロース培地)、抗体や試薬などの「消耗品費」に集中して使用したいと考えている。いままで得られている研究成果を国内や国外にて発表するため、学会参加費や交通費、論文投稿費などに使用する予定である。
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