研究課題/領域番号 |
23791450
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
黒河 千恵 順天堂大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (20399801)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 国際情報交流 / 米国 |
研究概要 |
放射線治療では高線量の放射線が人体に照射されるため、どのような治療の条件においても治療計画装置を用いて線量を正確に求める必要がある。とりわけ患者へ投与される表面線量は、皮膚への障害や近年研究がすすめられている電子線強度変調治療などにおいて重要であるにもかかわらず、これまで定量的な線量評価の対象としては扱うことが困難であった。そこで、本研究の目的は、熱蛍光薄膜体という新しいタイプの2次元線量計を用いて、既存の線量計では測定が困難であった1) 表面線量、2) 電子線強度変調照射における線量分布、3) 低エネルギーX線による患者被ばく線量の3次元評価を行うことで、より高精度な治療を安心して患者へ提供できるようにすることである。当該年度では、熱蛍光薄膜体の光子線・電子線に対する基本的性質を調べ、光子線を用いた表面線量の測定や強度変調放射線治療(IMRT)の線量検証を行った。その結果、定性的に線量を評価することができたが、熱蛍光体の感度補正や薄膜体自身の均一性、並びに、加熱して読み取りする作業に時間を要することなどの定量的な問題点が明らかとなった。そこで、より扱いやすい薄膜体として、立教大学 漆山教授との共同研究により、レーザーによって発光する輝尽蛍光薄膜体の開発を行い、放射線に対する性質を研究した。輝尽蛍光薄膜体では、これまでの熱蛍光薄膜体に比べ、読み取り時間を1/10程度に減少させ、扱いが容易となった。また、輝尽蛍光薄膜体についても放射線に対する基本的性質を調べ、光子線および電子線IMRT測定を行うための準備を整えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当該年度では、1) 熱蛍光薄膜体の基本的性質の解明、並びに、2) これを用いた表面線量の測定と 3) 光子線IMRTの線量分布を測定し、3次元データとして再構成することを可能とした。また、電子線IMRTに対しても、測定を行うための基礎データの収集を行い、準備を整えた。さらに、熱蛍光薄膜体を実際の臨床現場で用いる際に問題となる扱いの煩雑さについては、立教大学 漆山教授が新たに開発したレーザーで発光する輝尽蛍光薄膜体を用いることにより、解決可能であることを明らかとした。これらをもとに、熱蛍光薄膜体と輝尽蛍光薄膜体を用いた測定システムの汎用化を進めている。しかしながら、当初の目標であった、シミュレーション計算と測定データの定量的比較や、測定結果を市販の治療計画装置へ入力することによる既存の計算アルゴリズムの評価等については、まだ達成できていない。以上のことから、これまでの研究達成度は当初の研究目的と比較して、やや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては、1) 今年度達成できなかったシミュレーション計算並びに、既存の治療計画装置と熱蛍光薄膜体や輝尽蛍光薄膜体の測定値との定量的比較と、2) 両薄膜体の特性(柔らかく、任意の形に成型可能である)を生かした研究を行うことである。具体的には、以下の通りである。1) 熱蛍光薄膜体と輝尽蛍光薄膜体を用いて測定した表面線量データを既存の治療計画装置(3社)へ入力し、各社の線量計算アルゴリズムの特性と限界を調べる。また、測定データとモンテカルロ計算によるシミュレーション結果を比較する2) 円柱状の固体ファントムに熱蛍光薄膜体を巻き、またはファントム中に挟み、コーンビームCTによる患者への被ばく線量の測定を行う。この方法は、どの施設でも所有しているファントムさえあれば実施可能である。これにより、現在の画像取得プロトコールを見直し、画像の質を落とすことなく、より患者にとって被ばくの少ないプロトコールの作成を行う。また、両薄膜体が薄いことを利用して、患者が軟膏を使用した場合の放射線照射時の表面線量の評価を行う。軟膏によっては、その成分に高い原子番号の物質(ヨウ素など)が含まれているため、患者表面の線量が上がる可能性が指摘されている。そこで、両蛍光薄膜体に軟膏を塗布し、放射線を照射して表面線量の評価を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は、シミュレーションを行うための計算用、並びに解析用コンピュータ、被ばく線量測定用の円筒ファントム、薄膜体との比較のためのフィルムを購入予定である。また、国外出張旅費については、米国フロリダ大学でダイオード測定についての研究を行っている C. Liu氏、J. Li氏と研究開発のための打合せを行うために必要となる費用である。C. Liu氏とJ. Li氏は、広く臨床現場で使用されている線量測定装置であるダイオードによる測定システムの研究を行っている。両氏と研究打ち合わせを行い、臨床現場に必要とされる線量計の性質について助言を仰ぎ、薄膜体の測定システム汎用化を進める。
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