Nephrogenic systemic fibrosis(NSF:腎性全身性線維症)は腎不全患者、特に透析患者において,皮膚の腫脹や硬化,疼痛などで発症し,進行すると四肢関節の拘縮を生ずる疾患で,磁気共鳴画像(MRI)検査において用いられているガドリニウム(Gadolinium:Gd)造影剤が原因あるいは発症のきっかけであると報告されている.その発症機序は,キレートより遊離したGdが皮膚などに沈着し,線維化を生じると考察されているが,詳細は不明である.本研究は肝特異性Gd系MRI造影剤であるGd-EOB-DTPAを含む,各Gd系MRI造影剤を投与したラットモデルを用いて,腎性全身性線維症(NSF)発症の危険性を比較検討した. 5/6腎摘ラットに各Gd系MRI造影剤を反復投与し,NSFモデルを作成した後,主要臓器のGd沈着についてICP質量分析を用いて定量化を行った.同時に組織学的評価を行い,Gd分布について高分解能蛍光X線を用いて解析を試みた. Gd-DTPA-BMA 群では組織へのGd沈着が強く,沈着量は腎臓>皮膚>肝臓>肺>脾臓>筋肉>横隔膜>心臓の順であった.Gd-EOB-DTPA群では組織へのGd沈着が最も微量であった.組織におけるGd分布については,Gd-DTPA-BMA 群で散在性の沈着が可視化できた.病理組織学的には,Gd-DTPA-BMA群でNSFに特徴的な皮膚所見と考えられる像が得られた.Gd-EOB-DTPAは他のGd系MRI造影剤に比べ,腎障害モデルラットの主要臓器へのGd沈着は軽微で,安定・安全な造影剤である.これはGd-EOB-DTPAの使用によるNSF発症のリスクが低い事を示唆している.
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