研究課題/領域番号 |
23791463
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研究機関 | 独立行政法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
大島 康宏 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 量子ビーム応用研究部門, 博士研究員 (00588676)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 内用放射線療法 / 放射線抵抗性 / P2受容体 / 放射線誘発性ATP放出 |
研究概要 |
申請者は放射線誘発性ATP放出を介した癌の放射線抵抗性誘導機構を解明し、P2受容体阻害薬を内用放射線療法の治療効果向上のための新規放射線増感剤として提示するために、平成23年度はin vitroにおける検討を実施した。本研究を遂行する上では、使用する細胞株に抗体で認識可能な細胞表面抗原が高発現している必要があるため、ヒト上皮成長因子受容体2型(HER2)高発現細胞株であるヒト卵巣癌細胞株SKOV3を用いた。まず、SKOV3において発現するP2受容体サブタイプをRT-PCR法により検討したところ、P2X4、P2Y2、P2Y6受容体の発現が認められた。次に放射性同位元素(RI)曝露による細胞増殖抑制について、RIとしてCu-64を用い、RI添加後7日間培養した後、MTT法による評価を行うことで検討した。その結果、3MBq処置では細胞増殖抑制効果は認められず、30MBq処置することによって細胞増殖活性が約60%に低下した。この結果より、RI単独曝露によって十分な細胞増殖抑制効果を誘導することは施設内RI使用許可数量上、困難であることが明らかとなった。そこで、RIを細胞に集積させ、より低い放射能量で効果的に細胞増殖抑制を誘導可能にするため、RI標識抗体の合成を行った。抗HER2ヒト化モノクロナール抗体であるトラスツズマブに対し、クロラミンT法によりI-131を標識し、標識反応後、ゲルろ過クロマトグラフィーで分離・精製を行った。その結果、標識率96.3%でI-131標識トラスツズマブを合成することができた。今後、I-131標識トラスツズマブの免疫反応性を確認し、最適な標識条件を決定後、I-131標識トラスツズマブによる細胞障害活性について検討し、細胞外ATPおよびP2受容体阻害の影響について検討する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究の達成度がやや遅れてしまっている理由として、RI単独曝露による細胞増殖抑制の誘導に非常に高放射能量のRI処置が必要であることが明らかとなり、施設内におけるRI使用許可数量以内での検討が困難となったためと考えている。本研究を推進するに当たり、より低い放射能量で効果的に細胞障害効果を誘導する必要性から、平成24年度実施予定としていたRI標識抗体の作製を平成23年度に実施し、これまでにI-131標識トラスツズマブを合成することができた。In vitro実験として予定しているATP放出実験およびRI依存的な細胞障害に対するP2受容体作動薬、阻害薬の影響についての実験手法は、予備実験を行い、既に実験条件を確立した。そのため、今後I-131標識トラスツズマブの免疫反応性を評価し、十分な細胞障害活性が得られる条件を整えることで、平成23年度実施できなかった検討についても十分に推進できるものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の今後の推進方策としては、先ずI-131標識トラスツズマブの免疫反応性を検討し、細胞増殖抑制の誘導に使用可能であることを確認する。標識反応により顕著な免疫反応性の低下が認められた場合、酸化剤であるクロラミンTの用量を減量することで、最適な標識反応条件を検討する。その後、I-131標識トラスツズマブの放射化学的純度、比放射能および安定性を検討する。 次にI-131標識トラスツズマブを用いてSKOV3に対する細胞増殖抑制効果を検討し、以降の検討に用いる放射能量を決定する。放射線障害をより高感度に検出するため、今後はコロニー形成法による検討を実施する。放射線抵抗性に対する細胞外ATPの関与および放射線抵抗性誘導に関与するP2受容体を決定するために、I-131標識トラスツズマブによる細胞増殖抑制に対するATPおよびP2X4、P2Y2、P2Y6受容体特異的作動薬の影響、さらに、ATP分解酵素およびP2X4、P2Y2、P2Y6受容体特異的阻害薬の影響を検討する。また、I-131標識トラスツズマブ処置によって細胞外へATPが放出されているかどうかをルシフェリン-ルシフェラーゼ法により検討する。以上の検討から、in vitroにおけるP2受容体阻害による放射線増感効果の可能性を明らかにする。 さらに動物レベルでP2受容体阻害薬による放射線増感効果を検討するために、ヌードマウスにSKOV3細胞を移植し、担癌マウスを作製、I-131標識トラスツズマブを投与し、体内分布を検討する。その後、担癌マウスに対してI-131標識トラスツズマブを単独投与もしくはP2受容体阻害薬と併用し、抗癌効果を検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度は動物実験を実施する予定であるため、次年度研究費については担癌マウス作製のためのヌードマウス購入に使用する。さらに内用放射線療法薬としてI-131標識トラスツズマブを合成するため、I-131およびトラスツズマブの購入に使用する。また、in vitro実験から選抜されたP2受容体阻害薬を担癌マウスに投与するため、P2受容体阻害薬の購入に使用する。その他、細胞培養や動物飼育上の消耗品の購入に使用する。 本研究成果については学会発表および英文誌への投稿を予定しており、その参加費、旅費、雑誌投稿のための英文校閲費、雑誌投稿料に次年度研究費を充当する予定である。
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