研究課題/領域番号 |
23791467
|
研究機関 | 独立行政法人放射線医学総合研究所 |
研究代表者 |
藤田 真由美 独立行政法人放射線医学総合研究所, 重粒子医科学センター, 研究員 (80580331)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
キーワード | 放射線科学 |
研究概要 |
平成23年度は、放射線照射後に浸潤能が変化する細胞株を探索することを目的とし研究を行った。36種の細胞を用いる予定であったが、そのうち5種は細胞の状態が悪かったため除外し、31種類のヒト癌細胞株(乳癌、子宮頸癌、肺癌、食道癌、大腸癌、膵臓癌、脳腫瘍 [神経膠腫、膠芽腫、星状細胞腫、髄芽腫] 由来細胞株)を対象とした。 まず、X線(4Gy)、及び、重粒子線(2Gy)照射後の細胞浸潤能変化を調べたところ、非照射群に対しX線照射後に25%以上の浸潤能の増加が認められたのは6細胞株であり、反対に、25%以上の低下が確認されたのは7細胞株であった。また、炭素線照射後に上昇が認められたのは5細胞株であり、低下が確認されたのは12細胞株であった。 照射後の細胞浸潤能の変化は特定の細胞株で見られる現象なのか、浸潤能に変化が認められた細胞株のphenotypeから比較したところ、照射後に浸潤能が減少する細胞株には、脳腫瘍由来細胞株が多く確認された(X線照射後に抑制が確認された細胞株7種のうち4種は脳腫瘍由来細胞株であり、炭素線照射においては12細胞株のうち6種が脳腫瘍由来細胞株であった)。中でも、特に元々の浸潤能が高い脳腫瘍由来細胞に対して顕著な浸潤能抑制効果が認められた。一方で、照射後に浸潤能が上昇する細胞株については、癌種による特徴は確認できなかった。しかし、興味深いことに、炭素線照射で顕著に浸潤能が上昇する細胞株である膵癌由来細胞株PANC-1(照射後に浸潤能は約4倍に上昇)と星状細胞腫由来細胞株SF126 (照射後に浸潤能は約2.5倍に上昇)では、照射後にアメーバ様形態(球状形態)の細胞が出現することが共通因子として確認された。照射後浸潤能が上昇したPANC-1細胞では、このアメーバ様形態の細胞が多く浸潤する事を確認しており、炭素線照射後の浸潤能上昇に関与する可能性が示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度の研究計画である「放射線照射後に浸潤能が変化する細胞株を探索する」について、31種の癌由来細胞株を用い、X線または炭素線照射後の浸潤能を確認ずみである。照射後に浸潤能が変化した細胞株において、共通する特徴を見いだし、特に、炭素線照射後に浸潤能が顕著に上昇する細胞株PANC-1とSF126については、興味深い結果が得られている。H.24年度の結果と合わせて、発展的な研究となることが期待出来る。また、H. 23年度に得られた成果は、昨年度の癌学会、がん転移学会、ICRRにて報告した。さらに、炭素線照射後の膵癌由来細胞株MIAPaCa-2の浸潤能の抑制とその機序については、その成果をCancer Science誌に報告した。以上の理由から、現在までの達成度については、おおむね順調に進展していると評価する。
|
今後の研究の推進方策 |
平成24年度は、放射線照射後の浸潤能の抑制に有効な阻害剤を同定することを目的とし、研究を進める。現在、PANC-1とSF126細胞は共に炭素線照射後に顕著に浸潤能が上昇することを確認している。平成24年度は、まずはPANC-1細胞をもちいて、文部科学省新学術領域研究 がん支援 化学療法基盤支援活動が提供する阻害剤キットを利用し、炭素線浸潤能の抑制に有効な阻害剤をスクリーニングし同定する。次に、それら阻害剤がSF126の浸潤能上昇の抑制にも効果があるか検討する。 PANC-1とSF126細胞は共に炭素線照射後に顕著に浸潤能が上昇するほか、炭素線照射後にアメーバ様形態(球状形態)の細胞が出現することを確認している。さらに、照射したPANC-1細胞では、このアメーバ様形態の細胞が多く浸潤する事を見いだしており、炭素線照射後の浸潤能上昇にアメーバ様形態の細胞が関与する可能性が示唆されている。平成24年度に同定された浸潤能の抑制に有効な阻害剤のうち、細胞形態制御に関わる分子を標的とした阻害剤があるか確認する。それらの結果を合わせ、平成25年度の研究計画「有効性が示された阻害剤の標的分子より照射後の浸潤能上昇に関与する分子を同定する。」についての具体案を立てる。
|
次年度の研究費の使用計画 |
細胞培養のための牛胎児血清及び培養フラスコが100千円、細胞浸潤のスクリーニングに用いる96ウェル浸潤アッセイチャンバーに380千円、スクリーニングされた候補抑制剤の購入に200千円、また24ウェル浸潤アッセイチャンバー及びマトリゲルに100千円、 FACS解析に用いる試薬に20千円、さらに論文校閲・投稿に100千円とする。
|