研究課題/領域番号 |
23791467
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研究機関 | 独立行政法人放射線医学総合研究所 |
研究代表者 |
藤田 真由美 独立行政法人放射線医学総合研究所, 重粒子医科学センター, 研究員 (80580331)
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キーワード | 粒子線治療 |
研究概要 |
癌の治療効果を向上させるためには、転移を抑制することが極めて重要な課題である。X線照射やγ線照射は細胞の浸潤能を上昇させることが多数の細胞株で報告されているが、炭素線照射については、わずか5種類の細胞株における報告しかなく、いずれも、炭素線照射は細胞浸潤能を抑制するとのデータである。我々は、炭素線照射で浸潤能が誘導される細胞株を見いだしており、さらなる基礎データの蓄積が必要であると考えている。 初年度(平成23年度)は、31種の癌由来細胞株を用い、X線または炭素線照射後の浸潤能を確認し、放射線照射後に浸潤能が変化する細胞株を探索した。浸潤能が変化した細胞株について、癌種による特徴は確認できなかったが、興味深いことに、炭素線照射においては、大多数の細胞株では浸潤能が抑制されるのに対し、PANC-1とSF126細胞では、共に浸潤能が顕著に上昇することを見いだした。また、PANC-1とSF126の共通因子として、炭素線照射後にアメーバ様形態(球状形態)の細胞が出現することを確認している。 そこで、平成24年度は、炭素線誘導浸潤能の抑制に有効な阻害剤を同定することを目的とし、研究を行った。まずPANC-1細胞を用い、炭素線誘導浸潤能の抑制に有効な阻害剤を285種類の分子標的阻害剤(文部科学省新学術領域研究 がん支援化学療法基盤支援活動が提供する阻害剤キット)の中からスクリーニングした。その結果、PANC-1の炭素線誘導浸潤能の抑制には、一酸化窒素合成酵素 (NOS) 阻害剤、及び、PI3K阻害剤が有効である事を見いだした。その後の解析で、PANC-1及びSF126細胞では、炭素線照射後に共通して一酸化窒素(NO)の産生が上昇すること、また、この現象は、炭素線照射により浸潤能が減少する細胞株 (MIAPaCa-2細胞) では確認されないことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度の研究計画である「放射線照射後の浸潤能の抑制に有効な阻害剤を同定する」について、PANC-1細胞を用い、炭素線誘導浸潤能の抑制に有効な阻害剤を285種類の分子標的阻害剤よりスクリーニングした。その結果、NOS阻害剤(1400W-HCl, L-NMMA)、及び、PI3K阻害剤(LY294002, Wortmannin)が炭素線誘導浸潤能の抑制に有効な阻害剤である事を同定した。NOSに関しては、siRNAを用いた検証においても、炭素線誘導浸潤能の抑制に有効であることが示された。また、実際にPANC-1及びSF126細胞では、炭素線照射後に共にNOの産生が上昇すること、一方で、炭素線照射により浸潤能が減少する細胞株 (MIAPaCa-2細胞) ではNO産生が減少することを確認しており、炭素線照射後に浸潤が上昇する細胞株の特徴としてNO産生の上昇が重要因子である可能性が示唆された。この結果は、本研究の目的である、「放射線照射後の浸潤能変化の予測とそれに対する有効な抑制剤の選択」に役立つ基礎データとなることが期待される。 今年度得られた成果は、日本がん転移学会、日本癌学会、AACR-JCA joint conferenceにて報告した。さらに、炭素線照射後のPANC-1の浸潤能上昇とその機序については、その成果をCancer Science誌に報告した。 以上の理由から、現在までの達成度については、おおむね順調に進展していると評価する。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、有効性が示された阻害剤の標的分子より照射後の浸潤能の上昇に関与する分子やその機序を明らかにすることを目的とし、研究を進める。具体的には、昨年度までの研究で有効性が示された阻害剤の標的因子であるNOやPI3Kに焦点をあて、炭素線誘導浸潤能における役割を明らかにする。 現時点で、炭素線照射後に浸潤能が上昇するPANC-1及びSF126細胞では、炭素線照射後に共通してNOの産生が上昇することを確認している。平成25年度は、照射後に上昇したNOが実際にどのようなメカニズムを介し、浸潤能の上昇に関与するのか明らかにする。また、先行研究により、NOはPI3Kの活性化に関与すること、また別の報告では、PI3K-AKTの活性化は浸潤能の上昇に関与することが知られていることから、NOとPI3K-AKTの関係についても検討する予定である。 昨年度までの研究で、PANC-1とSF126細胞は共に炭素線照射後に顕著に浸潤能が上昇するほか、炭素線照射後にアメーバ様形態(球状形態)の細胞が出現することを確認している。照射したPANC-1細胞では、アメーバ様形態の細胞が多く浸潤する事を見いだしており、炭素線照射後の浸潤能上昇にアメーバ様形態の細胞が関与する可能性が考えられる。平成25年度は、炭素線照射後に出現するアメーバ様細胞の浸潤上昇に、照射後のNOの上昇やPI3Kの活性が関与するかについても検討していく予定である。 平成25年度は本課題の最終年度である。3年間の結果をふまえ、炭素線誘導浸潤能に関わる因子とその機序を明らかにし、また、炭素線誘導浸潤能の抑制に有効な阻害剤を提案し、まとめるられるように進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
細胞培養のための牛胎児血清及び培養フラスコが100千円、24ウェル浸潤アッセイチャンバー及びマトリゲルに200千円、 FACS解 析に用いる試薬に20千円、siRNAベクター及び試薬に100千円、免疫染色やwestern blotting用の抗体及び試薬に180千円、さらに論文校閲・投稿に100千円とする。
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